Side, Outlaw
朴薩高校。日本有数の進学校にして日本有数の戦争地帯である。生徒の9割が不良素行、残り1割がマジメを兼ね備えた暴力の嵐。今日も他校からの攻め入りがある情報をつかんだ。
「っしゃぁ行くぞテメェらぁあああああ!!」
『あああああああああああああああ!!!!』
「ちょっ、授業は!?」
向かうは校庭。相手は戟遂充率いる刹凱高校。周辺高校でもトップレベルの実力を持つ強者たちだ。
そんな敵を相手に立ち向かうは、朴薩高校1年筆頭の王田故露栖と配下である。入学して2ヶ月。王田はこの時点で1年の代表としてトップに立っていた。並大抵の努力ではない。
戟遂と王田は入学した直後から少し縁があった。周囲の高校を陰から制圧している案札兄弟を倒すため、いくつかの高校と休戦条約を締結した入学式という名の筆頭会。当時の王田はまだ天下統一していない時の為、力を示す機会としてこの条約及び案札兄弟殲滅作戦に名乗り出た。そのとき同じように作戦に名乗り出たのが戟遂だ。
彼らは提携して案札兄弟の手がかりを集めた。何しろ、当時は高校すらどこに通っていたのか分からなかったほど手際が良かったからだ。まずは情報を集めていった。
1週間ほど経過したある日、徹底的に探し回りついに彼らの所在を突き止めた。案札兄弟は、なんと札凱高校に通っていたのだ。
それが判明した直後、戟遂は王田と手を切った。これは俺の国の問題だから。そう言って。
それから3日が経過した。戟遂は1年を率いて案札兄弟と直接対峙することに成功。裏から手を回して壊滅させる案札兄弟に、正面切って挑めば勝てるとみんなが思い込んでいた。しかし、結果は全く違った。
この世界に卑怯という概念は存在しない。矜持や誇りはあるが、勝ったものが強者なのだ。戟遂は中学までの世界の戦い方で真っ向から挑んだ。しかし、案札兄弟は2人と見せかけて複数の仲間を忍ばせていた。最終的に戟遂たちは背後からの刺客に襲われ壊滅的被害を受けた。
高校での戦いは規模が違う。中学までの戦いではだめだった。敵の素性は割れた。いつでも攻勢に出られる。しかし、敵は強い。
それでも戟遂は諦めなかった。仲間が倒れ、最後の一人になろうとも。
先輩の手は借りなかった。最初に自分から申し出た以上、自分でケリをつける。それがこの世界のルールだ。
ある日の札凱高校の屋上。素性が割れた案札兄弟はもはや隠れることもなく堂々としていた。そこへ屋上の扉から一人の生徒が現れた。戟遂である。ここまでやられてなお戟遂は立ち上がった。そんな彼を案札兄弟はあざ笑う。暗器を用いる二人組には、おそらく勝てない。それを理解してなお立ち向かう。プライドだった。彼の根本的な力は、何度倒されても折れることのない鋼の精神。力がものをいう世界において、戟遂の精神力は強者にも劣らない力だった。
戟遂と案札兄弟がぶつかり合う。単純な力量差でいえば戟遂の方が有利だが、案札兄弟は目に見えないワイヤーや仕込み針、麻痺毒などを使ってくる。今までの経験上、真正面から突っ込んでいく戦いしか知らない戟遂は少しずつダメージを受けていった。こちらからもダメージを与えているが、相手は二人。こちらのダメージの半分ずつしか与えられない。
状況は次第に戟遂が押され始めた。拳のキレが弱まる。何度も膝をつく。しかし、それでも倒れない。自らが帯びた使命を全うする。そのことだけは確実にやり遂げる。それがプライドだった。
それでも体はついていかない。ついに、案札兄弟のナックルダスターが戟遂の額を捉え……。
金属が骨にぶつかる音がした。
痛みは、感じない。薄らいだ意識の中で状況を観察する。前を見れば、スローモーションで倒れていく案札兄弟の弟と、その額を2センチほど凹ませたものであろう金属バッドが宙を舞っている。
ゆっくりと背後を振り返るとそこには、王田が立っていた。
「どうして……」
「お前、強いな。お前みたいな強い奴は貴重だ。そう簡単に死なせたくない。そう思っただけだ」
俺が、強い? 戟遂は疑問に思った。こんなにもやられた姿を見ておきながら、強いとはどういうことか。だが、助けられてしまったことだけはわかる。
その後は王田も介入し、戦力の落ちた案札兄弟を一気に倒し切った。
こちらも限界で立っていられなくなった。その場に大の字で倒れる。王田も同じようにした。
「なあ、何で俺を助けに来たんだ?」
「……お前の心が気高いからだ」
「はっ、なんだそれ」
戟遂にしてみれば意味が分からなかったが、王田にとってはそういう人物こそが好敵手に相応しいと思ったのだ。
それから戟遂は入院した。深い傷はなかったがある程度の入院期間は必要だった。
しばらくして退院した戟遂は、真っ先に王田に決闘を申し込んだ。借りを作って返せるような相手ではないと思ったからだ。決闘に勝ったら、あの時の借りを取り消してもらう。そういう条件で。
しかし、決着はつかなかった。王田も手加減していたわけではない。しかし、あの戦いで戟遂も戦い方を学んだのだ。王田は獲物に金属バッド。そして戟遂はチェーンソーで挑んだ。実力差では王田が上、武器の扱いでは戟遂が有利だった。
結果、勝負がつかないままこうして何度も戦うことになった。今ではお互いが名を上げ1年のトップ。それからは配下を引き連れ全面戦争のようになっていた。また、戦う間柄ではあるが、ある種の友情のようなものも芽生えていた。
こうして二人は、仇敵とも好敵手とも呼べる関係になったのだ。
後に高校2年となり天下統一を果たした王田が、行方不明になったという情報が入った。いなくなってから3日が経過しても帰ってこない。
しかし、戟遂は王田がやられたとは思っていない。きっと想定外の事態に追われているだけだと思っている。
「王田……お前は今どこで、何をしてるんだ」
戟遂は好敵手の王田を案じた。敵でもあり友でもある王田は、ある種心の支えだ。彼がいなくなり、後はどうなるのか。考えても無駄なことだがどうしても考えてしまう。
いや。王田なら大丈夫だ。あいつのことだ。きっとまた、なにか武勲を上げて帰ってくる。そう信じた。
しかし、彼はこの時はまだ知らない。
自分が王田に会いに行くことになるということに――。




