なんでこうなるんですかぁ
翌朝。アレーナは一人で岩石地帯へ来ていた。無論、王田の指示である。前日に新調した服を身にまとい、岩肌がむき出しの地面を進んでいく。ちなみに王田は用事があるといって先に出ていった。
「ああ、疲れた……」
アレーナは歩いてここまで来ていた。街から徒歩1時間といったところか。ようやくレベル上げに適した場所に来た。目を凝らすと、擬態しているが確かにゴーレムがいる。
鈍重なゴーレムに対し有利な位置取りの高い岩に上り魔法を発動させる。ゴーレムは岩でできているものが多いので、打撃系の攻撃が有効だ。
「”ストーンタックル”!」
地面に転がっていた大き目の石がいくつもゴーレムに向かっていく。寝ていたらしきゴーレムは突然の攻撃に慌てて防御態勢をとる。しかし、レベルの低い緩慢な動作のゴーレムでは魔法詠唱の速さについてこられない。
「”アイスハンマー”!」
魔法によって生み出された文字通り氷のハンマーが、ゴーレムに直撃し粉々に砕け散る。1体撃破。粉々になった岩の中から鈍色の光を放つ鉱石を取り出す。手のひらサイズより少し小さいこれが、ゴーレムの核だ。依頼でなくとも、需要はあるので組合で換金することができる。
その後も難なくゴーレムを砕いていった。主に土系統か氷系統の打撃で粉々にしては核を集めるという作業を繰り返す。
しばらくゴーレム退治を続けていたが、この周囲にはいなくなってしまった。ゴーレムの自然発生には時間がかかるので、この狩場はしばらく使えない。
そう思って別の狩場へ移動しようとしたとき、ふいに地面が揺れた気がした。
……気のせい? そう思い再び移動しようとすると、また揺れを感じた。
「地震?」
態勢を低くし、周囲を警戒する。そうしている間にも揺れは収まらない。
「いや、これは……足音?」
不規則ではあるがだんだんと近づいてくる感覚。それは30秒もしないうちに確信に変わった。確実に足音だ。こんな足音を出せるのはゴーレムしかいない。であれば、どれほどの巨体なのか。その正体は、揺れとともに聞こえてきた音で分かった。全長3メートルはあろうかというゴーレムが、目の前を走っている人を追いかけている。あれは……。
「オウダ様!?」
その姿はまさしく、撲殺丸を担ぎ学ランを羽織った王田であった。
「オウダ様!? 何をしているんですか!?」
「おう、アレーナ! ちょうどいいところに!」
ちょうどいいとは何のことだろうか。唖然としながら王田の姿を見つめていると、王田が指示を出してきた。
「おい、こいつに魔法をぶつけろ!」
「え!? えっ!?」
「早くしろ!」
訳が分からないがとにかく魔法を放つ。
「あっ、”アイスハンマー”!」
正面から氷の塊がぶつけたが、大きなゴーレムはわずかな破片を飛ばすだけでびくともしない。アレーナに気づいた巨大ゴーレムは、地面に指を突き立てるとそのまま持ち上げた。1メートルほどの岩の塊が軽々と持ち上げられる。その岩を、投げた。
「ひゃぁああー!!」
アレーナは、迫りくる大岩に目が釘付けになりながらも動けなかった。
ああ、私はここで、死……。そう思った直後。
アレーナの目の前に人型のようなものが翳み、直後。大岩が砕け散った。爆発したような音とともに飛んでくる小さな破片を、身を低くしてかわす。風圧も収まりゆっくりと顔を上げるとそこには、王田が撲殺丸を振りかぶった姿勢で立っていた。
「お、オウダ様ぁ……」
「いいか、敵は1体だ。俺がすべての攻撃をひきつけるから、アレーナはとにかく魔法を叩きつけろ。いいな?」
「ひぇええ……」
「返事はぁ!」
「はっ、はい!」
王田の怒気に気圧され、反射的に返事をするアレーナ。返事を確かに聞き取った王田は、こちらの動きを警戒するように立っているゴーレムへ走っていった。
ゴーレムの横薙ぎの拳を飛び跳ねて躱し、獲物を振りかぶる。先端が左肩に命中し、とても硬いと思わせる金属音を発しながら陥没した。左腕の動きが鈍った。
「アレーナ、撃て!」
突然の事態に混乱しながらもなんとか魔法を放つ。
「”クラッシュインパクト”!」
土系統の打撃魔法で攻撃する。しかし、実力差からかあまり効いている様子はない。と、王田から再び指示が入る。
「こいつは鉄系の素材でできてる! 火を使え!」
急な事態の変化に何とか頭を追いつかせようと、言われた通り火系統の魔法を放つ。
「”ファイアートルネード”!」
ゴーレムを中心に炎の渦が巻き上がった。見れば表面が少し溶けている。ダメージを与えられた?
「その調子だ! あとは地味に面倒な左腕を片付けろ! 火の魔法で破壊に使えるものだ!」
少しづつ調子を取り戻してきたアレーナは、火属性かつ破壊力の強い魔法を放つ。
「”アークボルケーノ”!」
魔法陣がちょうどゴーレムの左腕に重なるように設置し、魔法を発動する。まさに噴火のごとき力をもって、地面が爆発したように盛り上がる。そこから生まれた超高温のマグマは火柱を上げ左腕を溶かしつくしていった。
完全には融解しなかったものの、もはや腕というより溶けた鉄が突き出ているだけの状態となった。
「よくやった! 次の指示があるまで隠れてろ!」
そうして王田が胴体を、脚を、頭を潰していき、途中途中でアレーナに指示を与える。
もはや戦闘能力はわずかにしか残っていないゴーレムに王田は一撃加え、
「アレーナ、とどめだ!」
最後の攻撃を促す。
「”ブラッドリーメテオ”!」
火属性にして打撃効果を持つ最大級の魔法を放つ。メテオ――隕石はゴーレムの胸部に当たり地面に押し倒して、爆発した。あたりに熱風が広がる。しばらくしてようやく、火は鎮火した。王田がこちらに寄ってくる。
「よくやった、アレーナ。見事な魔法だった」
「お、オウダ様……」
アレーナの魔法をたたえる王田。呆然とするアレーナ。ようやく事態を飲み込めてきて、自分が何をしていたのかを把握する。
「お、お、オウダ様ぁ……!!」
「おう、どうした」
「どうしたじゃありません! なんてことするんですか!」
「いや、お前のレベル上げに付き合ってやったんだよ。ステータス画面を見てみろ」
言われて渋々ステータスを開く。すると、レベルが38になっていた。
「え! なんで……」
「当り前だろ。お前のレベルで銀ランクの敵を倒したんだから。バレたら捕まるところだぜ」
つまり、今回のレベル上げはアレーナに一人で行かせて、偶然戦闘中に遭遇した王田と共闘し敵を撃破した。ということになっている。明らかにレベルの足りない冒険者に高ランクの依頼を受けさせることはできないが、裏を返せばたまたまこうなってしまったという口実は作れる。もちろん、バレないに越したことはないが。
プルプルと震えながら俯くアレーナ。
「どうした。そんなにレベルが上がったのが嬉しかったか」
全く見当違いなことをさらっと言う。おそらく気づいていてこういった。
「お……」
「お?」
「オウダ様の馬鹿ぁあー!!」
こうしてアレーナはパーティでの銀ランク依頼受注権を、王田はアイアンゴーレム討伐の報酬を得ることとなった。
ちなみにアレーナは3日ほどろくに口をきいてくれなかった。




