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第5話

 身体強化を習得して俺はまず体を強化することを覚えた。ビギナーの魔術師なんていうのは誰しも大体そんなものだ。しかし、俺は身体強化を覚える前から魔力を一部に集めることができた。何故?と言われてもぶっちゃけわからない。赤ん坊の頃から何となく魔力の気配を感じることができて、何となく試してみたらできたのだ。


 そして魔力を一部に集めることを応用して剣を振る腕を強化した、踏み込む足を強化した、ここまではいい。いや、そもそも体の部位ごとに絞るほど細かく魔力操作できる魔術師自体がほぼいないらしいが、まあここまでは良しとする。その後、俺は何を強化しようと思ったかというと。


 ―――目だ。


 目で敵の動きを追えれば、身体強化で激しい運動に耐えられるようになった体で避けられないということはまずないだろう、と。俺はそう考えた。そして、それは正しかった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


『レ、レントくん、本当に良いんですか・・?』


『大丈夫ですよメルカさん、たぶん・・・』


『たぶんじゃ駄目ですよ!!弱めにはしますけど、あんまり私は魔力操作が上手くないし・・・』


『まあ、もし当たっても精々が骨折くらいですよ。すぐに直せますし平気です』


『うーん、じゃあ一回だけですよ?ちゃんと避けてくださいね!それじゃ行きますよー!』


 俺は目と体全体に身体強化をかけて、メルカさんに水属性の初級魔術"ウォーターボール"を撃ってもらう、という検証をしてみた。身体強化とこの強化した目があれば避けられないことはない。というか―――。


 俺は飛んできた"ウォーターボール"を凝視して、目の前に来た瞬間に持っていた両手剣で切り裂く。迫ってきていた"ウォーターボール"はパシャッっと小気味いい音を立てながら爆散し、ただの水となって俺の服を濡らした。


『うそ・・・』


 驚きに目を見開いて俺を見ているメルカさんを一旦置き、俺はガッツポーズをしながら「うっしゃ!」と唸っていた。例え水という質量の高くない魔術であろうと、魔力によってコントロールされた魔術が剣で切られたくらいで爆散するなんていうことはない。そう、核を破壊される以外では。


 俺は先ほど"ウォーターボール"を切り裂いたが、正確には"ウォーターボール"ではなく、魔術の核を切ったのだった。それによって魔術を構成している魔力は霧散し、"ウォーターボール"はただの水となる。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 事前に魔術では検証しているが、剣士相手の検証はしていなかった。訓練中に試すことも考えたが、10歳の誕生日が近づいており、ちょうどいい機会なので今回の卒業試験で実践しようという腹積もりだったのである。


 目に魔力を集中させ、父上の剣先を注視する。弱めてくれたとはいえ、上位の魔術師であるメルカさんが放った"ウォーターボール"の核を切ったのだ。父上の剣筋を見極めるくらいできなくないはずだ。どこかの黒の剣士のごとく、剣の弱点を突いて剣を折るなんていうことはまだできそうにはないが。


 身体強化もしっかりとかけてから父上に俺の出せる限りの速度で迫る。先ほどと同じ速度であり、もちろん父上もそれに対応してくる。が、俺の"目"はさっきとは全く違う。別の物だと言ってもいいくらいだろう。父上が受けようとしている剣が視える。手に取るようにどの位置に来て防御しようとしているかがわかるのだ。俺は体全体を最大まで強化して、父上の剣を最小限の動きで避け、そして自分の剣先を父上の首元に突きつける。


「・・・参った」


 その一言を父親から引き出して、俺は剣を収める。勝てるかもしれないと思ってはいたが、ここまで完封できるとは・・・。思っていた以上に視力を向上させるというのは戦闘において大きな武器になるようだ。なんてったって満10歳の俺が元王国騎士団部隊長に勝てるくらいだ。生半可な強みでないことは明らかだ。


「今、何が起きたのかほとんど分からなかった・・・。俺は王国騎士団でもそれなりに名を馳せた騎士だったんだが・・・。レント、何をしたんだお前?魔術か?」


「魔術、ではありますがただの身体強化です。剣の試合で攻撃魔術を使うほど俺も落ちぶれてはいませんよ。さっきの身体強化は体全体を強化すると同時に―――」


「目も強化したんだよね!レント君!クロード様、レント君ったらすっごいんですよー!この間なんて私の"ウォーターボール"の魔術核を切って無効化したんですから!」


 父上に説明しようとしていたら、喋りたがりのメルカさんに大事なところを言われてしまったが、まあ伝わったから良しとしよう。ついでに魔術核を見て切ることができるという情報も伝えることができた。目の強化がどのくらい戦いに影響を及ぼすかは今の試合と合わせて大体伝わったことだろう。


「メルカちゃんの"ウォーターボール"を切った!?レント、あなた凄いじゃないの!」


 母上とタルク兄さんも目を丸くして、興味が無さそうに本を読んでいたペント兄さんでさえ興味深そうな顔をこちらに向けている。


「それは凄いなレント、とりあえず剣技の卒業試験は合格だ。誕生祝いと合格祝いを兼ねてみんなで食事をしながら詳しい話を聞こうじゃないか」


 父の一言にみんなは頷きながら、屋敷に入っていった。

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