第6話
「食べながら話そうじゃないか。それで、いつからあの"技"ができるようになっていたんだ?私には一言も教えてくれなかったじゃないか」
俺と父上が汗を流している間に、屋敷では女性陣が食事の準備をし、みんな揃ったところで父上が食器に山ほど肉と芋を積みながら話始めた。
「目の強化の発想自体は前々からあったんですが、でもなかなか難しくて・・・。実戦で使えるようになるレベルまで仕上げたのはひと月ほど前ですね。卒業試験で使いたかったので秘密にしておきました」
「そうか・・・気づかないうちに色々と試していたのだな。ところでメルカちゃん、目の強化を実戦で使う魔術師は知人にいるかね?私の周りにはいないし、騎士団時代でも聞いた記憶がないのだが」
俺は魔力操作が非常に得意だが、流石に今まで試したことのある人くらいはいるだろうと思っていたが、父上の現役時代でも聞いたことがなかったらしい。まさか、目を強化することが戦闘で強みになる、ということを一切誰も思いつかないわけがないだろう。
「うーん、私も聞いたことがありませんね・・・。部分強化の研究をしている教授は知っていますけれど、戦闘で使う人はいないかも?そもそも部分強化というのは非常に難しい上に、適切な配分をしなければ体全体を強化するのと同じくらい魔力を消費してしまうんです。なので使えたとしても使っている人はいないんじゃないでしょうか・・・」
なるほど。だがそんなに難しいか?と疑問に思ってしまう。生後半年から10歳まで常に魔力操作の訓練(というか遊んでいただけとも言えるが)をしていた俺からしても目の強化は確かに難しかったが、何か月も成果が出ないというほどの難易度ではなかった。10年か20年ほど魔力操作に時間をかければできなくはないはずだ。
「ふむ、私も部分強化は難しい上にあまり効率的な強化方法ではないと聞いたことがある。だが、レントはそれを非常に有効的に活用できている、というわけか。魔力操作の才能が突出していたのかもしれないな。」
父上が才能の問題である、と納得すると。先ほどから黙って魚の煮付けをつついていたペント兄さんが、俺の方を向いてとある助言をしてきた。
「近いうちにその部分強化の研究をしているというメルカの知人に会いに行ってみたらどうだ。新しい部分強化の活用方法も見つかるかもしれない。冒険者になるなら手札は多いほうがいい」
確かに。視力以外にも嗅覚や聴覚を強化することができれば戦闘だけでなく、ダンジョン攻略では圧倒的に有利になること間違いなしだ。
「そうですね。メルカさん、その方を紹介してもらってもいいですか?」
「おっけー」
軽い口調で承諾してくれたメルカさんに礼を言い、俺も塊肉を綺麗に切り分けて自分の皿に乗せる。部分強化の研究教授ってどんな人だろうか。前世からのイメージだと白髪の若干髪が薄いちょっとおかしなおっさんしか思い浮かばないな。
『ヒッヒッヒ、わしはこの道50年の部分強化研究学者じゃ・・・。自分では未だに部分強化どころか身体強化すらできたことがないのじゃ。ヒッヒッヒ』
みたいな変人が出てきても困る。まあそれはそれで面白いかもしれないが。
「メルカさん、その教授ってどんな人なんです?」
「教授?うーん、ちょっと変な人かな・・・悪い人ではないんだけどね」
言ってから乾いた笑いを軽く溢してしまうメルカさんを見て、「あぁ、たぶん結構変な人だな」と勝手に納得してしまった。悪い人ではないという台詞は、裏を返すと別に良い人でもないと聞こえなくはない。ある程度覚悟はしておいたほうがよさそうだ。
「それで、入学するのは本当に冒険者学校でいいの?魔術師学校でもいいのよ?あぁ、それにさっきの魔術があるなら騎士学校にも入れないことはなさそうね」
と最終確認をされる。俺は冒険者学校に入学するつもりである。
母上から再三確認されていることだが、俺が通うことのできる学校は3つ存在する。
1つ目が騎士学校。これは王国騎士団、又は王宮近衛騎士団に入団を希望する剣士が入る学校である。その名の通り騎士になるために勉強と訓練をする環境が整っている。
そして2つ目が魔術師学校。こちらも騎士学校と同じく名前の通り、魔術研究所や魔獣研究所、宮廷魔導士やお抱え魔術師になりたい魔力を持つ者が入学する学校である。
最後が冒険者学校だ。これも他の二つと大体同じ流れなのだが、少し違いがある。冒険者学校を卒業している冒険者が宮廷魔導士になることや、王国騎士団に入ることは可能なのであるが、逆に魔術師学校を卒業した魔術師や、騎士学校を卒業した騎士が冒険者としてギルドからクエストを受けることはできないとされている。
冒険者というのは特殊な職業で、腕っぷしが強いだけでは務まらない。ダンジョンで生き抜くためのモンスターに関する知識、罠を見抜くための知恵などなどが必要であり、薬草一つの見分け方でさえ失敗すると簡単に死を招く。
そんな危険が入り混じったクエストに、冒険者としての教育を受けていない力だけはある素人が参加したところで、生き残る確率なんていうのは五分五分だ。そういう事情があるため、それぞれ目的に合った学校が作られているのである。




