第14話
翌朝、俺はいつも通り日課の訓練をこなした後、家の近くで馬車を拾ってセレナ教授の家へ向かった。
到着してから玄関先にある門を潜り、扉についているノッカーをコンコンと小気味良く鳴らす。
「レント君かー!今ちょっと手が離せないから勝手に入ってくれー!」
昨日と同じパターンか。いつも何かしらの実験をしているんだろうか。今日もネズミが可哀想な思いをしているのかなと思いつつドアノブに手をかけて扉を開き、中に入る。
中に入って昨日と同じ作業台の前を見ると、大きなゴーグルをはめたセレナ教授が、見た目では何なのかよく分からない50cm四方の箱の前に立っていた。
「やあ、こんにちはレント君。少しそこで見ていてくれたまえ」
とこちらを振り向くこともなく言い、作業を続けていた。
よく分からない箱の端には蛇口のようなものがついていて、セレナ教授はそこにコップを持っていくとそのまま蛇口を捻った。
蛇口からはおよそ飲み物だとは思えない、黒と緑が入り交じった気色の悪い液体が出てくる。
コップに液体を注いだセレナ教授は、それをそのまま口元へ持っていき、ゴクゴクと音を立てて飲み、遂には飲み干したようだった。
「不味い!不味すぎる!まず間違いなく飲み物とは思えない色、絶望的な臭みと破滅的な苦さ!極めつけにこの吐き気を催す後味!酷すぎるなこれは。あぁ、とりあえず適当に座りたまえ。君も飲むかい?」
そう言うとコップにもう一度その不味すぎる液体を注いで俺の方へ差し出してきた。
「あ、いえ、結構です。断固としてお断りします」
はっきりと、嫌だ絶対に飲みたくないという意を伝えて、その辺りにある椅子に腰をかける。
あの食レポを聞いて飲もうと思うなんてよほどの物好きか、砂漠で三日間水無しで生活した人くらいのものだろう。
「そうか、貴重な物なのにもったいない。まあいいだろう。」
貴重だろうと何だろうと、破滅的な程不味い液体はただの不味い液体だ。断固拒否する。
注いでしまった液体をどうするのかと見ていると、昨日のネズミが飼われているケージに近づき、水飲み場に注いでしまった。ネズミ君、御愁傷様だ。
一通り落ち着いたところで、セレナ教授はゴーグルを外してから俺の前にあった椅子に座り、口直しをするように近くのテーブルにあったマグカップから紅茶を啜った。
「それで、昨日の返事をしに来ました。父に相談したところ、セレナ教授が教えてくださるなら間違いないだろうと」
「そうだろうそうだろう、自分の子どもが私の弟子になるというのを、クロードの奴が許可しないわけがない」
旧知だというのは知っていたが、かなり見知った仲らしい。
「父とはいつお知り合いに?」
まさか父上が赤ん坊の頃に実は乳母をしていた。なんてとんでもない話ではないだろうが、父は魔術師でもなければもちろん学者でもない。一介の騎士だ。何のタイミングで知り合ったんだろうか。
「あぁ、クロードは私の教え子でね。私が騎士学校で対魔術の授業を教えていた頃の生徒だったんだ」
そういうことか。と俺は納得して頷き、続きを待つ。
「まあそういうわけで、見知った仲ということだ。ではこれで正式に君は私の弟子となった。ここまではいいかね?」
「ええ」
「ならば早速授業をする。ん・・・?いきなり何をと驚いた顔をしているね?だがこれもある意味授業の一環なのさ。冒険者たるもの常に準備万端でないといけないが、万が一準備不足で不測の事態に陥ったとしても即座に冷静に、そして正確な判断をしなければならない」
またいきなりこの人は・・・と思って驚いているとその顔を見られ、先に言われてしまった。確かにそう言われてみれば。冒険をしていれば様々な状況があるはずで、その中で想定外の事が起きるたびに驚いて動揺していてはやっていけないだろう。
「理解できたかな?それでは第一回目の授業といこうじゃないか。授業というか課題だな。さぁ、この家の中にある物の中で好きなものを一つ、選びたまえ」
そう言って部屋全体を紹介するかのように手を広げ、俺に選択を促した。




