第13話
ゆったりとした時間が流れながら馬車が屋敷の前に到着した。行きはペント兄さんが払ってくれたので帰りくらいは払おうと、財布を取り出したのだが、ペント兄さんが手で制してさっさと払ってしまった。まさに格好いい大人だ。
メルカさんはそのまま家に帰るということで、馬車に乗ったままバイバーイ、またね!と言って行ってしまった。
俺は屋敷に戻ろうと、屋敷の門に手をかけたときペント兄さんから声をかけられた。
「レント」
「ん?どうしたの?」
俺は何の話だろうと思い返事をすると。
「父さんと母さんに話すかどうかはお前に任せる。どちらにせよ何も変わらないだろう。あの人たちはその程度のことで人が変わったりはしない」
前世のことだった。
実は自分の子どもが転生者だったということを"その程度"と思うだろうか・・・。たぶん、そう思うだろう。転生者だろうと関係なく、自分の弟であることに変わりはない。と即断言したペント兄さんを育てた二人だ。
家族に恵まれて良かった、と少し涙腺を刺激されたがぐっと堪え、ありがとうとペント兄さんに返事をして門を潜った。
結論から言うと、両親には言わないことにした。理由としては二つある。
一つはペント兄さんが言った通り、どちらにせよ何も変わらないだろうということ。二つ目は、セレナ教授との会話が少し引っ掛かったこと。
邪神から神託を受けた冒険者がこの世界を滅ぼそうとした。という話。
常識的に考えて、神から世界を滅ぼせと言われて滅ぼそうとする人間がそんなにいるだろうか?邪神に操られていたのではないか?という可能性を考えるのは普通だろう。
そして俺に神託と能力を授けるのを忘れていたうっかり邪神様が後から接触してきて、俺が見事操られて世界を滅ぼそうとしてしまったら、転生者だと知っていた家族に危害が及ぶかもしれない。
知らなかったとしても危害が及ぶ気もするが・・・。
ともかく、言っても言わなくても変わらないのなら無駄なリスクを背負わせる必要はないだろうという判断だ。
それに両親が誰かに口を滑らせてしまい、それを聞き付けた過激派の転生者撲滅集団(存在するかどうかは定かでない)が俺を退治しにくるかもしれない。
俺はまだこの世界に生まれてからたった10年だ。知らないことも山ほどある。無用な危険を囲いこむ必要はないだろう。
という風に結論付けたが、実は両親に話して「お前なんてバンデイム家の子ではない!」とか言われたらどうしようとか考えてしまって、言い訳を重ねただけであることを頭の隅に追いやっておく。
帰ってから少し昼寝をして、夕飯の時間まで魔術の訓練と体力作りに勤しむ。魔術の訓練と言っても、本を読みながら魔力を集中させる部位を徐々にずらしていくとか、そんな程度の片手間でできることだ。ぶっちゃけ訓練という程のことでもなく、ほとんど常にやっている。
色々とやっているうちに夕食の時間になり、食卓へ向かうと皆揃って食べ始めていた。
自分の席に座り、大皿から自分の取り皿にサラダを取ってから父上に話しかける。
「父上、今日セレナ教授のところに行って話を聞いてきました」
「ん?あぁ、なんだ。部分強化の研究をしているのはセレナ教授だったのか」
旧知か、なら話が早そうだ。
「えぇ、それで、部分強化の研究を手伝ってくれと頼まれまして。その代わり弟子として冒険者のノウハウを教えてくれるそうです」
「良い話じゃないか。あの人は昔から変な人だが、冒険者としての腕は間違いない。その話受けるんだろう?」
この話については父上としても全く問題がないみたいだ。というか父上が昔から知っているって本当に何歳なんだろうかあの人。
「父上が許可してくださるなら、という条件で一旦話を持ち帰ってきたので、また返事はしていません。では、明日にでもお受けすると伝えてこようと思います」
「お前も律儀な子だな。冒険者志望の子どもなら、A級冒険者の弟子入り話なんて何も考えずに飛び付くものだというのに。あ、タルク、そこのソースを取ってくれ」
「あいよ、ほれっ」
「旦那様!ソースくらい私がお取りいたしますのに」
「タルク!調味料の瓶を投げるのは止めなさいといつも言っているじゃない!」
ほいほーい、と言いながら肉にむしゃぶりつくタルク兄さん。騒がしい食卓だ。伯爵家の食卓とは到底思えない。
ともあれ父上に許可をいただいたことだし、早速明日セレナ教授のところへ出向いて返事をしてくるとしよう。




