第12話
何かを思い付いたセレナ教授が何かを言おうとして・・・。そして口を閉じて、ついでに目も瞑ってしまった。なんなんだこの人は。何となく分かったきていた気がしたけどやっぱりよく分からん。
「よし、少し待て」
目を開いてからそういった後、部屋の隅にあるクローゼットへ歩いていき、首を突っ込んで何かを取り出す。見たところそれは宝石箱のようだった。
セレナ教授は自分の席に戻り、その宝石箱に何やら呪文のようなものを唱えると、宝石箱がひとりでに口を開けた。
魔道具が何かだろうか?そのあたりの知識はまだあまり仕入れていないためとりあえず黙って見ていると、セレナ教授は宝石箱をトレイの上にひっくり返した。すると宝石箱の中から大量の金貨がジャラジャラとトレイを埋めつくし、更に止まらずトレイから溢れだして床に落ちてしまった。
「おぉ、まだ結構入っていたか。これなら大丈夫そうだな」
何が大丈夫なのかは理解できないが、とりあえず溢れた金貨を拾ってセレナ教授に手渡す。
「ありがとう。これくらいあれば当分働かなくとも生きていけそうだ。問題ないな」
さっきから何のことに対して大丈夫だとか、問題ないだの言っているのか全く分からないまま、ひとまずセレナ教授の言葉を待つ俺たち三人。
「なんだ、そんなに見つめてもやらないぞ。私の大事な生活費なのだからな」
いや別に欲しくて見てたわけではないんですけど・・・。
いい加減説明が欲しくなってきて口を開こうとすると、セレナ教授が話を再開した。
「異世界人君、いやレント君。私が君を一流の、A級の冒険者にしてやろう」
えっと、つまりどういうこと?
「いまいち言っている意味が分からないんですけど、冒険者としてのノウハウを教えてくださるってことですか?」
「そうだ。それもA級冒険者として一人立ちできるレベルまで、親身になって必要な知識を教え、経験を積ませてあげようじゃないか」
急展開というか急提案過ぎて頭がついていかないのだが、言っている通りのことらしい。俺としては非常に助かるものの、とりあえずは冒険者学校で最低でも5年は学習しないといけないのだが、どうしたものか。
「あの、俺はまだ冒険者学校に入学すらしていなくて、冒険者になる為には5年ほど通わないといけないんですけども・・・」
「その点については問題ない。この国では、A級以上の冒険者は弟子を一人連れてクエストを受注することが許されている。つまり私は、君に弟子になれ、と言っているんだ」
問題ない・・・のか?
そもそも学校に通いながらクエストを受けるって結構、というかめちゃめちゃ大変じゃないか?
俺が色々と考えていると、
「なに、今すぐ返事をしろというわけではない。色々と考えることもあるだろう。別に私に弟子入りせずともA級の冒険者になることはできるかもしれないしな」
そう言ってセレナ教授は二つ目のシュークリームにかじりついていた。あ、美味しそうに微笑みながら口の端にクリーム付いてるのちょっと可愛い。
いやいや、今はそんなのはどうでもよくて。
「ありがたい話ですけど、教えてもらうことに対する報酬はどうしたらいいんですか?俺個人としてはほとんどお金を持っていないんですが・・・」
俺が個人で持っている金なんてたかが知れている。お小遣いで毎月貰っている銀貨はずっと貯めているから、あるにはあるが、銀貨の100枚や200枚でA級冒険者様から指導してもらえるもんなのだろうか。
「それについては問題ない。お金ではなく、魔術の研究を手伝ってもらいたい。部分強化は私もできるのだが、視力を強化することはできないし、できるという人を見たことも聞いたこともない。貴重な人材だ」
そういうことか。魔術の研究を手伝わせる代わりに冒険者の知識を叩き込んでやると。
「それに、今まで記録に残っている異世界人は、例に漏れず非常に強力な能力を神から授かっているという。うっかりさんな神様がそのうち君に会いに来て、授ける予定だった能力の付与をしてくれるかもしれないだろう?その際にはその能力の研究もさせてもらいたい」
そんなうっかり神が授けてくれる能力にはあんまり期待できないが、まあそういうことらしい。
俺としては悪い話ではないし、正直なところ是非ともお願いしたいところではあるが、まずは父上に相談してからでないとそう易々と返事をすることはできない。
「とりあえず父に相談してみます。俺の独断で、というわけにはいかないので」
「そうだろうな。私は基本的にこの家にいる。返事が固まったらいつでも訪ねてくればいい」
話が一段落ついたところで、メルカさんがそろそろ帰ろうか!と言い出して、セレナ教授に玄関まで見送ってもらってから教授の家を後にした。
まだ聞きたいことはいくらかあったが、いつでも遊びに来ていいと言ってくれていたし、また来たときに尋ねればいいだろう。
というか色々あって疲れてしまった。メルカさんもそれを気にしてくれていたのかもしれない。
広場に出てから適当な馬車を探して、行き先を伝えてから乗り込み、ペント兄さんとメルカさんと談笑しながら帰路についたのだった。




