第11話
「それで、なぜセレナ教授は俺の世界の文字を知っているんですか?もしかしてセレナ教授も異世界人、とか?」
とりあえず真っ先に疑問に思った点を聞いてみることにした。セレナ教授が日本から来た、俺と同じ異世界人でもない限り、漢字を書くことができるのはおかしな話だ。
「いいや、残念ながら私は異世界人ではないよ。私は表向きだと、身体強化のうち部分強化という少し特殊な魔術について研究している、ということになっている。まあ実際に興味があって研究しているのは間違いないがね。だが本来は異世界の研究をしているのだよ。部分強化の研究というのも、文献に記されていた昔の異世界人が部分強化に特化した魔術師であったから、というわけだ」
「なんでまた本来の研究を隠すような真似を?」
教授はカップを手に取り、少し啜って一息ついてから答える。
「先ほど君に聞いただろう?邪神に神託を受けてはいないか?と。その昔、邪神に唆されてこの大陸を破滅させようとした異世界人の存在が記録に残っている。そんな存在にとって異世界人を研究する学者というのは、少々鬱陶しい存在になるとは思わないかね?」
まあ、そうだろう。世界の破滅を望んでいるなんていうトンデモ野郎がいるとするならば、自分の事を研究している訳の分からない学者に危機感を覚え、優先して殺しに来る。ということもないではないだろう。若干警戒しすぎな気もするが、命がかかっているならそこまでおかしな話でもない。
「なるほど、分かりました。」
確かに分かったには分かったが、色々と分からない点が多すぎる。そもそも異世界人というのは日本人だけなのだろうか?地球ですら何十種類も言語がある上に、こうして異世界が確認できている以上他にも異世界があってもおかしくはない。
「確認されている異世界人というのは日本人だけなんでしょうか?」
「日本人?」
セレナ教授は聞いたことのない単語だ、なんだそれは、という顔をする。
「えっと、俺の前世では"地球"という一つの惑星―――じゃなくて大陸に住んでいて、その中でも何十種類も言語があったんです。俺が理解できるのは精々一種類で、文字だけなら二、三種類判別できなくもないかもしれませんが・・・。俺はその大陸の日本というところに住んでいました。さっき教授がボールに書いていた文字も日本語、のはずです」
だよな?あれ?中国語って謝って書くか?どうだっけ。まあ細かいところはいいんじゃないか。異世界人にとって日本人も中国人も変わらないだろう。
「それで、日本人しか転生していないのかが知りたかったんですけど」
うーん、と唸りながら自分の記憶を探すようにセレナ教授は首を傾げ、眉間に皺を寄せている。この様子だと心当たりはなさそうだ。
「それについてはわからん。としか言いようがない。私の記憶の中に"日本"という単語は残っていない。だが、残されていた文献を見た限りでは同じような文字ばかりではなかったぞ。先ほどの文字のように角ばったややこしいものもあれば、丸っこい文字もあった」
それを聞いて俺はほとんど確信する。
日本人しか転生していない可能性はかなり高そうだ。丸っこい文字というのは十中八九"ひらがな"のことだろう。早めにその文献を読んで、この世界での異世界人の在り方を理解しておく必要がありそうだ。
何も知らないまま邪神とやらに付け込まれて、知らぬ間に世界を破滅に導いてしまっては取り返しがつかない。
「恐らく、その丸っこい文字というのも日本語だと思います。その文献はどこで読んだのですか?まだこの家にあったりしますか?」
「いいや、異世界人が書いた文献というのは王国の最高機密文書になっている。こんな誰でも空き巣に入れそうなボロ屋には置いておけまい。王宮の図書館の奥に存在する機密庫の中にあるのを読んだのだ」
なんとまためんどくさそうな場所に保管されているんだ・・・。当たり前ではあるが、俺みたいな子どもにおいそれとは見せてもらえる品ではないだろうが、一応聞くだけ聞いてみるか。
「そこに入ることは可能ですか?できれば読んでみたいのですが」
続けてセレナ教授に質問をすると、今まで隣で黙って聞いていたペント兄さんが口を出してきた。
「あそこは王宮で働いている上位勤務者か、A級冒険者以上の冒険者でないと見ることはできない。貴族であろうとなんであろうとな」
そりゃそうだよな、王宮のそのまた奥底に秘蔵されている書物を簡単に見られるわけがない。というか王宮の上位勤務者かA級冒険者しか見られない?ということはつまり、
「気が付いたか。私はこんななりをしているが、アルート王国屈指の学者で、尚且つA級冒険者なのだ。どうだ?凄いだろう」
エッヘン!とその薄っすらと膨らんでいる胸を前面に押し出し、自慢げな顔でこちらを見下している。
ちゃんと子どもらしい可愛いところもあるんだな、と変な関心をしてからさっきの光景を思い出して納得する。先ほど発動していた初級魔術の"ロックアロー"だが、確かに初級は初級だが、何十本も同時に発動していた。普通の魔術師では五本程度の同時発動が精々なものだろう。
自慢じゃないが、魔力操作を得意としている俺だって十本いけるかいけないか、というところだ。それでも結構凄い気はするけれど、一応赤ん坊の頃からひたすら毎日魔力操作をやっていて、これでも一応10年選手だ。その俺の何倍も同時発動ができるというのは、なるほどA級冒険者としての実力は伊達じゃないらしい。
「ちなみにさっき言った11歳というのは嘘だ。11歳でA級冒険者まで上り詰められるわけがなかろう」
おい。嘘かよ。
異世界なら11歳で天才で飛び級でA級という恐らくは上位にあたる冒険者というのも、珍しいが不可能ではないことなのかも、と納得しかけていたところだったのに。
本当は何歳なんだろう。聞いていいのかこれ。
「そうだ!良いことを思いついたぞ」
女性に年齢を聞くのは果たしてセーフなのか、どうなんだろうと俺が悩んでいる間に、セレナ教授は何か思いついたらしい。




