第10話
どうする?というか何故・・・?
そう思ったところで気が付いた。さっき投げられたボールに書かれていた文字は"漢字"だったことに。
なぜセレナ教授が漢字を知っているのか、書けるのかということはとりあえず置いておいて。彼女は返答次第では俺のことを処分しなければいけない、と言った。つまり返答を間違えなければ殺されない未来もある―――と思いたい。
どう答えれば殺されない?
額から汗がだらだらと流れる。必死に考えながら汗を拭おうと腕を少し上げたその瞬間、目の前に岩でできた大き目の矢のようなものが俺の目の前に無数出現した。
「私はあまり気が長いほうではないのでね。早く答えていただきたいのだが。それと、異世界人は常軌を逸した力を持っていると聞く。次動いたら問答無用で体に穴を空けてやろう。それでも死ななければ他の術式も用意してある。こう見えて私は高位の魔術師でもあるのでね」
もう猶予はなさそうだ。動揺してあまり頭の整理がついていないが俺は口を開いて正直に話す。
「俺は・・・確かに転生者です。生まれて6ヵ月くらいした時に急に前世の記憶を思い出しました」
「それで?君の使命はなんだね?誰に何を指示されている?」
使命?特にこれといってないが。誰かに指示されているということもないし。そのまま伝えても大丈夫だろうか・・・。土属性の初級魔術である"ロックアロー"は未だに俺の体を突き刺す準備万端な状態で、その矢じりをこちらに向けている。
「特に使命といったものは何も。誰かに指示をされているわけでもないです」
セレナ教授は先ほどからこちらを向いていて、その吸い込まれそうな大きな瞳で真っすぐと俺の目を見ている。
どうだ、ダメか?逃げるか?というか逃げられるのかこの状況。そもそもペント兄さんとメルカさんはどうなんだ。味方なのかそれとも―――。
上手く回っていない脳みそをできる限りの早さで回転させ、現状をどうにか打破しようと色々考えてはみるが、一向に有効な手段に思い当たらない。焦りに焦って相変わらず汗だくの状態で固まっていると、目の前にあった"ロックアロー"が音もなく姿を消した。
「そうか、ならいいんだ。邪神の使い等でなければ、別に私も取って食おうというわけではない。驚かしてすまなかった」
どうやら殺されるという最悪の事態は回避できたらしい。しかし、先ほどの一触即発な雰囲気とは打って変わって軽い感じだった。この人はよく分からない。
ペント兄さんとメルカさんにどうやって説明したものか・・・。説明も何も、俺に言えることはさっき言ったことが全てなので、これ以上何も言いようがないのだけれど。
「レント君って転生者だったんだ!すっごいね!珍しい~」
え?そんな感じなの?転生者って珍しいけどたまにいる感じなの?
「レント、メルカは珍しいとか簡単に言っているがそんなものじゃない。今までの歴史で確認された異世界からの転生者はロルフ大陸の中では4人だけだ」
ということは数百年に1度くらいなのか。確かに珍しいとかいうレベルじゃないが、いるにはいるんだな。
「そう、なんですか。それより俺は転生者で、精神は本当はもう100歳くらいなんです。ペント兄さんは弟がそんな存在だと知ったら、何か忌避感というか、そういう感情にはならないんですか・・・?」
「関係ないだろう。お前は俺の弟であることに変わりはない。前世の知識があろうと、たとえ邪神の使いであったとしても家族は家族だ。教授がお前を殺すと言ってもお断りして家に連れて帰るだけだ」
なんだこのイケメンは。ペント兄さんが輝いて見える。少し涙が滲んでしまうくらい感動してしまったじゃないか。ペント兄さんの横でメルカさんが、うんうん!と笑顔で頷いてその意見を肯定してくれているのも嬉しかった。
父上と母上もそう思ってくれるだろうか。
「まあそれは別に良いとして、君の身体強化魔術はなかなかのものだな。私が本気で強化して投げたボールに書かれた文字が認識できるレベルにまで視力を強化するなど、神の御使いでなくとも常軌を逸していると言っていいだろう。どうやってその年でそこまで極めたのだ?」
感動の場面に一切感傷的になることもなく、セレナ教授はそれを足蹴にして質問してきた。俺もちょっと色々と落ち着いてきたところで返答する。
「えっと、俺からもいくつか質問したいんですけど。とりあえず先に答えると、赤ん坊の頃から暇だったので魔力操作をして遊んでいました。単純に体を強化したり、魔力を一か所に集めてみたり。それを繰り返していた事以外は特に特別な訓練はしていません」
「なるほど。幼少期の訓練は成人してからの訓練の何倍もの効率を叩き出すという。それこそ赤ん坊の頃からしていたのならそういうこともありえるのか?」
セレナ教授はメモに何かしらを書き込みながら、時折ふんふんと頷いて納得したような顔をしている。
俺から答えらえれる質問は今答えたもの程度だろう。セレナ教授が知的好奇心に駆られて、俺の体で色々と検証を始める前に、俺からもいくつか質問しておかなければならない。この人は何の前触れもなく実験し始めそうだからな。何となく人となりが分かってきた。




