第43景
食器の山をひっくり返したら、驚くべきことに深皿が一つも無かった。そして匙 も無かった。浅いお皿が大小様々7種類と、先端が三つにわかれた木製の食刺し が二つあるきりだ。あとは何に使うのかわからない石がごろごろしてたり、桶が四つ、鍋が三つ、鉄板が一つ……深皿無いのにどんな料理にこんなに鍋を使ってるんだよとはおもうけど、それ以上にまず金属製品多いな。なんだこの家。
樹上都市だけあって、ここでは鉱物資源は貴重なのだ。そこそこ外と交流のある人間だとかでなければ金属製品なんて持ってないのが一般的である。衛兵だというならいざ知らず、自警団の武装は木を削り出した槍や棍棒、蔓を編んだ投げ縄が主だというくらいだ。陶器だって怪しいもんだろう。竃ももっぱらがっつり灰が敷き詰められてるだけの木製、ついさっきお隣さんでもらった芋粥の鍋も当然木製。見ず知らずの人間に自宅で火を扱ってもらいたく無いのも道理だろう。なお加熱方法は焼け石を具が入った鍋に投下する方式である。
ちなみに私はこの都市で火を使う場合は自分の鍋の中で火を起こし、その鍋の中で別の鍋を加熱する方式を使っている。焼け石加熱方式の調理法苦手。
「まあ、要するに皿に盛らないで鍋ごともってって問題無いってことなんだけどね……今まで汁物 とかってどうしてたの?」
木製の鍋じゃなくて金属製の鍋だからこその疑問である。木製の鍋なら鍋自体はそんなに熱くなんないからそのまま食器だと思うのもありだろうけど、金属製の鍋はそういうわけにはいかない。まさか桶では無いだろう。
「しるもの? ってたべたことないかも」
「ううぇええ」
この不均衡 な文化がもろに樹上都市 というものなんだろうかね。
「まあいいけど、とにかく匙がいるわね」
普通の食刺し なら掻き込むくらいできそうなものだけど、この先端が妙に細く鋭くなるように削られたものでは無理だろう。はっきり言って食刺し というか、串を木の板にくくりつけたみたいなもんだし。
「今から削るから、適当な木片くれる?」
「もくへん……わかった」
マティスちゃんは一つ頷くと、近くに無駄にあるお皿のうち一枚をオレに差し出した。
ああ、うん。木片。木片? まあ、こんなに使ってないのは確かなんだろう。比較的小さいやつだけど……まあ、2本くらいは作れるだろうし、それもいいか。適当に床に座り、腰から魔剣 を抜く。よく考えたら他に適当な刃物持ってないし、しょうがないよね。
『俺は断固抗議するけどな』
(抗議は黙殺します。聞こえてないだろうけどな。いや、黙殺だから聞こえてないのが正しいんだけど)
『……まあ、今何を考えてるかはなんとなくわかる』
急がないと鍋の中身が冷めてしまう。せっかく温かく作ってもらったのに、それは勿体なさすぎるだろう。超特急で作らなくては。
皿を真っ二つに割って、さらにそれを斜めに割る。変形扇型といったところか。全然扇型とは別物だけどな。そして広がった側を丸め、全体の中心を決めた後皿状に削っていく。最後は柄だ。今回は急ぎなので面取り……角を削るだけでいい。本当は鑢 とかで全体をなめらかにした方がいいんだろうけど、まああんまり舐ったりしなけりゃ大丈夫だろう。お姉さんが卑しい食べ方をしない人であることを祈るばかりだ。
「よし、じゃあこれをお姉さんにもってこうか」
「うん」
返事は元気なんだけど、なぜかマティスちゃん動かない。両手を背中に回してただこっちを見ている。
……いや、自分でお姉ちゃんのとこ持ってきたいとか無いの?
「どうかしたの?」
「……その、ゆびきっちゃった」
「はあぁ!?」
床に目をやると、明らかに血を拭いた跡がちらほらある。いつの間に切った。なぜ切った。そしていつの間に拭いた。傷口はもう処置して閉じたんだろうな。この忙しい時に何してくれてんだ。頭の中に次々浮かぶ言葉をどこから口を出せばいいのかさっぱりわからないのだけど、目で思っていることが察せられたのか少女はすすすと後ずさる。おいこら逃げんな。逃げようとすんな。
とにかくあれだ。ええと、鍋をお姉さんに持ってく。まずはそこからだ。なんとなく人でなしな気もするけど、この際この子の怪我は無視……いや、うん。人としてどうなんだろうとは思うけど。うん。でも、うん。お姉さんの看病の方が優先だ。
……でもやっぱり先に女の子の怪我の具合を見た方がいいかなぁ。
いつも読んでくださってありがとうございます。




