第44景
言ってはなんだが、指を切ったくらいで人が死ぬことは無いわけで。
病気の方も死にそうには無いけれど、どちらかといえばこっちの方が重いもんじゃ無いかと思うわけで。
だが年齢的に考えると問題が大きいのは若く幼い方なのかとか、お姉さんの方もこの子が怪我をしたままだと知れば落ち着かなかったりするんじゃ無いかと思っちゃったりするわけで。
まあ、考えてる間になんとかしろよって話だよな。
「よし、ついさっき品出ししたばっかりの綺麗な麻布があったな」
「うん? しなだし?」
首をかしげてる少女の手を取り、桶から荷袋から出した酒で傷を洗う。そして棚に並んでる麻布を指に巻いて止血する。ありふれた基本的な治療行為なんだけど、なんかこう、すごい変なものを見たみたいな顔をして無いか? この子どうしたんだろ。
「いまのみずなに? なんかすーすーする」
「うん? 水じゃなくてお酒だよ。酒精 が消毒にいいって言われてるんだ」
「しゅせい ?」
「まあ、気にしなくていいよ。とりあえず血が出たら酒をかけとけばいいって覚えときな」
……。
「っていうか、普段怪我したときどうしてんの?」
「おねえちゃんがつばつけとけって」
「うお。男らしっ!」
っていうか、だったらなんで今オレに怪我したこと報告したし。そこは黙って唾つけとけよ。あ、もしかしてオレがどうかしたの? って聞いたからか。なるほど、そいつは悪かった。
まあ傷の処置はしたからいい加減鍋を持って行こう。
処置したからってこの子が鍋を持てるわけじゃ無いから、持つのがオレなのはかわらないしな。
「さて、お姉さんの部屋は奥だったね」
「うん」
「匙くらい持つか?」
「うん!」
元気のいいことだ。先導してくれる少女 ちゃんに従って家の奥に進む。まあ、樹上 都市の家の奥行きなんてたかがしれてるし、進むなんていうほどのものでも無いか。それでもまあ、諸々に掛かった時間を考えると若干鍋が冷めてしまった感は否めない。
残念ながら火を使えないので鍋を温めなおすことはできないけれど、それもまあ致し方なしかな。冷めてもいいように若干味は薄めにしてもらったし。
「おじゃまします」
「おねえちゃん?」
「あー……」
お姉さん、相変わらず音を発する青い塊って感じだな。まあ、それが髪の毛だとわかっていると大分印象は違うものだけどな。印象って大事だよ。うん。
「ええと、お姉さん顔どこですかね」
「……じぶん…………で……たべられます…………が」
「いや、その名誉を妹さんに譲ってはいかがかと」
「まてぃす……には…………かお……わかる…………かな」
「疑問系じゃ無いですか」
「……かな!」
「ホルドナ鳥じゃないんだから」
「ほるどなちょう?」
「砂漠の方にそういう鳥がいるんだ。『かなかな』って鳴くんだ」
「ふーん? さばく?」
「ああ。砂漠っていうのは砂の海でね……いや待てよ、海も知らないか?」
「うん、それもしらない」
「ええと、なんなら知ってるのかな? 川とか池とかなら……」
「……あの…………ぉ」
おっと。突然真っ白な細いものが青い塊から飛び出した。いうまでもなくお姉さんの腕だ。うっかりマティスちゃんとの話に集中しすぎてたかな。
「ええと、口がどこにあるかの話でしたっけ」
「……いえ………………たべものあるのに……もらえないのは…………つらいです」
「ああ、それは申し訳ない」
「おねえちゃん、おなかへってたの?」
「…………ごめん」
「いや、どっちかっていうとこっちこそごめんなさいです。マティスちゃん、あとは任せた」
少女の手に鍋と木製の匙を握らせる。
……なんというか、本当に申し訳ない。あとはマティスちゃんに任せるので姉妹水入らずで楽しんでください。オレはそろそろ宿にでも行こうかな。
予定日に更新できなくて申し訳有りません。




