第41景
散々悩みはしたものの、一度適当な方策 が浮かんでしまうとなかなか他は思いつかなくなるものである。そんなわけでお隣さんに適当に病人食を作ってもらうことにした。いやぁ、隣のおばさん……もとい奥さんが親切な人で本当に助かった。病人ほっといて飯を食うなんて、とてもじゃないけど美味しくいただけないからな。
「すいませんお……くさん。オレ達までご馳走になっちゃって」
「ん、まあ暇だったからね。今日は旦那もいないし」
まあ、病人食の片手間で作ってもらった晩飯を食べてると、今の自分の言葉を無性に振り返りたいような気持ちにもなるけど、多分ここは深く考えたら負けなところだと思う。
「病人看病するならしっかり食べないとね」
「そうですね。オレ一人だとこの子にもの食わせるのも大変で」
「まあ、それくらいだと好き嫌いも多いしね」
ちなみにさっきオレ『達』と言ったのは、もちろん隣にマティスちゃんがいるからだ。隣の奥さんが料理をしているうちに、その匂いに誘われらしく彼女の腹が可愛らしく鳴ったので、いぶかしんで問い詰めたところどうやら空腹であるらしいということが判明した。
というか普段お姉さんが結構真面目に料理をする人らしく、実は生の赤い果菜 の持つ青臭さが鼻をつき、食欲を失っていたのだということを白状した。
たかが野菜の匂い一つで食欲を放棄しようとはなかなか贅沢な話である。まあ、これくらいの年齢の子供であればしょうがないのかもしれないというか、年相応でなかなか可愛いと思えないこともないのだけれど、問題なのは彼女のお姉さんがいつから倒れていたかということだ。
少なくとも昼過ぎに訪ねた時にはすでに彼女が一人で店番をしていたことから、おそらく昼も同じようにろくに食べないで済ませていたことが考えられる。
というか、オレの食べる分をわざわざ大量にとってきたことを思えば、下手すれば二、三日はろくに食べずにいたのかもしれない。同じように持ってきてから食べられずに残すという経過を経ているのなら、他にも十分食べ物があってもいいだろう。取りに行く必要はないのだから。
「まあ、つまり何が言いたいのかというと、しっかり食べろよってことだな」
「何言ってるんだい?」
「いや、オレはたまたま今日この子に会っただけでね。ここ二、三日この子のお姉さんが倒れてたんだと思うと、よくもまあ頑張ったもんだなぁって思ってさ」
「ああなるほど。私も隣家で人死にが出るのは嫌だしねぇ。あんたが来てくれてよかったよ。偶然でもなんでもね」
隣の奥さんと二人並んで見つめる先で、少女 はモキュモキュと粥を口に詰め込みほおを膨らませている。無駄に喋らないのは、そう教育をされてるからか喋る余裕がないからか。まあ、ちゃんと作ってくれた人間に礼を言えるんなら、他の礼儀についてとやかく言うつもりはないんだが。
「そういえば旦那さんて、衛兵ですか? それとも自警団?」
「自警団ね。あくせく働いて何が楽しいんだか」
「まあ、また衛兵に被害者でましたしね。しょうがないですよ」
「盗賊が出たってね。なんで普通にこの街に住もうと思わないのかしら?」
「さあ? なんででしょうね」
まあ、実際住もうとして住めるかはわからないけどね。この街にだって最大何人まで暮らせるかっていう許容人数量的なものはあると思うし、あんまり肉は食えないし、そもそもこの足元に地面がない暮らしになれるかどうかみたいなのもあるし、意外と住む人を選ぶ土地だったりする。あと、働いてないと落ち着かないと思っても仕事をすることが逆に難しくて仕事にならないことが精神的な苦痛になるって人もいるらしいし。
そういう意味でいえば、お店やさんをやろうなんて人よりは自警団や衛兵、消防団に所属してるってのは結構健全に働いてると言えるかもしれない。
「ごちそうさまでした」
お、食べ終わったか。
「おいしいごはん、ありがとうございました」
「ああ、気にしないでよ。お隣さんでしょう? また何かあったらいつでもおいで」
「はい! ……おねえさん、はやくおねえちゃんのとこいこう」
「……おねえさん?」
「ああうん……お兄さんな。わかったけどいい加減覚えてくれ」
なんか途端に隣の奥さんの視線が訝しげになったからさ。
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