第38景
オレが病気で倒れてたらどうするだろう? 一緒にいるのが頼りない子供で、怪しいやつが家に来てたら。そんな時どう対処するんだろう?
「……」
『どうした?』
いや、どうするもなにも、あったわそれ。
養い子いたし、店開いてるし、客がわんさかいるのに更に破落戸 が店に来て……味方のはずの連中はオレを陥 れることばっかり考えててかけらも役に立たなかったし。
結論から言えば弱ってるところなんて誰にも見せられないから死ぬほど頑張るしかなかった。
んで、案の定死にかけて……こっそり貯めてたお金を全額叩いて買った薬飲みまくって。最後は魔剣 の力に頼ったんだっけか。懐かしいようなもう思い出したくも無いような。
どうでもいい思い出とは言えないな。流石に。最悪の思い出であることは確かだけども。
『なあ、どうしたんだよ?』
「別に、あんたを使うと決めた時のことを思い出しただけ」
『ああ……あの時か。あれでお前だいぶ……』
「だいぶ?」
『いや、惜しかったよなぁと思って』
何言いたいのかわかんないけど、説明する気が無いことだけはわかった。うーん? あの時もっといい扱いをしてくれるように交渉すべきだった……とかじゃ無いだろうな。なんとなくだけど。まあ、魔剣 のことはどうでもいいか。今は今のことを考えよう。
ええと、とにかく奥にいるお姉さん とやらが病気だとしたら誰にも何も言いたく無いのだろう。出てこないのも頷ける。しかも明らかにオレの言動がよそ者だからなぁ。刺激しないように控えめにしてるのかもしれない。つまりいろんな意味で怯えてるんじゃ無いか? という話だ。だとして、オレがすべきことは……特に無いか。それこそ変に刺激する方が良く無い。しばらく黙って待ってればマティスちゃんが帰ってくるんだ。彼女に任せよう。
もちろん可能なら誤解は解くべきだろうけど、それは相手に余裕がある時にするべきことであって、一人で寝込んで弱ってる時にするべきことじゃ無い。どんな病気でも魔法のように治す手段があるというならば別だけど。
「……」
『どうした? 俺のこと見つめて』
「あった……」
まさしく手元にあったそんな手段。もちろん治療するわけじゃなくて、単に一時的に意識をしっかりさせる程度の機能だけども、こういうとき意識がしっかりするのってすごく心強いことのはずだ。
「お前、意識を取り戻させたりする力があるよな」
『あるけど……それがどうかしたか?』
「それって誰にでも使えるんだったよな」
『まあそうだけど』
「病気が治るわけじゃ無いのは知ってるけど、それでも意識はしっかりするんだよな」
『うん……何が言いたいんだ?』
「そりゃお前、奥で寝てるらしいお姉さんに起きてもらおうかな……と」
『うん?』
「だーかーら、お前を使って病気で寝込んでるお姉さんとやらを励ませないかなって」
『え、やめろよ』
さっきまでの軽い勢い が嘘のような硬い声音で、至極まっすぐに拒絶の言葉を告げられた。
「なんでいきなりそんな本気の声音 なんだよ」
『そりゃやめてほしいからにきまってんだろ』
「じゃなくて、理由だよ」
『いろいろあるけど……お前病床の枕元に剥き身の短剣もった奴がいてみろ。確実に悲鳴が上がるぞ』
「……そりゃそうだ」
そしてその理由は非常に正当性のあるものだった。その可能性は考えてなかったな。うん。
言われてみればそうだ。普段気安く扱いすぎて、刃物どころかこういう形の薬だと言われても違和感が無い段階まで慣れていたけれど、正真正銘こいつは短剣の形をしているのだった。ただでさえ心配の種のよそ者がこんなもの持って寝室に上がりこんできたら、オレなら枕に仕込んだ護身用の武器で攻撃するところだ。というかだいたいみんなそうだろう。ましてやお姉さんというからには女性。、そういった警戒心は人一倍強いだろう。
結局結論は、何もするべからずというところで落ち着く。こういうのなんていうんだっけ? 〝道を探さねば迷子にはならぬ〟……だったか? それとも〝御者の横から手綱に触るな〟? なんかその辺だよな。
『お前、時々ばかだよな』
「お前は俺が知る限りいつも馬鹿だけどな」
『なんだと!?』
結論を言えば、やっぱり暇。
話し相手がいるっていいなぁ。
要する〝下手な考え休むににたり〟ってことです。
いつも読んでくださってありがとうございます。




