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第37景

 ふと気づいたんだけど、今オレこの家の中で例のお姉さんと二人きりなんじゃね?

 だいぶ前から……というかあの子が顔出さない限りあのお姉さん一言も喋らないし、起きてるのか寝てるのか実在してるのかも怪しいくらいだけど、すげー気になる。っていうか実在してるかが怪しいからきになるのかな。奥の部屋で何やってんだろ? でも勝手に入るのも悪いしなぁ。

 あと、もし本当に寝てたら夜這いっていうか、寝込みを襲おうとしてるみたいで大分危ないよな。

 そういえばここの人間って、まあ、盗んでまで欲しいものがないっていうのは良いにしてもそういう欲求はないんだろうか? そういう危険性とか。

 もしかして、あまりに暮らしが完成しすぎてて、主としての保存欲求もない、とか?


「うわぁ。ここの暮らしってぬるま湯のように見えて実は熱湯なのか」


 以前聞いたことがある。一部の蛙や魚などは、水から沸かした湯の中では逃げることなく死んでいくと。

 休憩所には良いかもしれない。だけど、ここでそう考えるとここで暮らすのはかなりの危険がある。ここに駐在する商人的が短期間で別の人間と交代するのは、そういう理由なのかもしれない。つまり勤勉な商人はやがてここを出て行く。

 うん、当たり前か。

 ライゴがなんだかんだ言ってここで働いているのは、案外常に仕事があるからなのかもしれない。忙しい忙しいと言ってはいるけれど、あれで暇になったら1日落ち着きなく執務室を往復するだけのような気もする。サヴァジーさんも普通に隠居してれば良いものを、赤札の更新時期になると世界中飛び回り始めるし、そのために日々の訓練を怠ったりもしないしな。オレの周りは仕事大好き人間ばっかりか。あれでよくアンテは人に仕事を休めなんていうものだ。

 いや、でもよく考えたらオレ、仕事が好きなわけじゃないぞ?

 あくまでこの仕事は手段なわけで。目的のためには金がいる、稼ぐために飛び回る。飛び回ればある程度満たされる。満たされれば次を求めてまた金がいる。だいたいそんな感じだ。

 別に仕事が楽しくないかと言われればそんなことはないけれど、じゃあ、仕事だけで生きていけるほどの覚悟があるかといえば……微妙だ。いや、より正確に言うなら、仕事も生活も何もかも放り捨てて、自分の趣味と目的のために行きたい気持ちは確かにある。

 だけど、より長く楽しむためには、それじゃだめだってことをオレは頭で理解してしまってる。

 そして仕事のためには人付き合いがあり、人付き合いのためには見せる顔がいる。

 面倒なことこのうえない。


「いっそ、本当にハーフリングかゴブリンに生まれたかった」


 何者にもとざされぬ魔法と、ただ己として生きるための魔法。ドラゴナートなんて贅沢は言わないから、旅をして、一人で生きていける種族でありたかった。

 せめて魔法でも使えれば、もっと違う生き方があったかもしれないのに。


『まあ、生まれは何者にもどうしようもないものさ』

「お前なんて生まれどころか生き方さえ人任せだもんな」


 突然話しかけてきた魔剣 サーシスにそう返す。一瞬ためらったけど、どうせ近くに人はいないし、ここまで無関心を貫く例のお姉さんとやらが、今更オレを変な人だと告げ口したりもしないだろう。


『まあなー。生きづらいもんだぜ』

「っというか、そもそも生きてるのか? お前」

『生きてるには、生きてるんじゃないか?』

「そうか」


 ……。


「それで、なんか用か?」

『いや、暇そうだから出番かと思って』

「確かに時間は持て余し気味だったけどな」

『だろう』

「お前がその調子で話題を振れなくなると、また暇に戻るんだけどな」

『魔剣とはいえ剣に建設的な話題を求めるなよ』

「求めてねーよ」


 ああ、常に会話ができる相手がいるっていいなぁ。好き勝手に暮らすとなると、まあ多分こいつを手放すことになるわけで。

 それはちょっと惜しいかもしれない。

 しかし本当にお姉さんなんの反応もないな。実は病気で伏せってるとか。ちょっと心配になってきたけど……

いつも読んでくださってありがとうございます。

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