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第34景

 実際のところ、こんなもん10回聞いたことを確認できればいい方だと思う。

 一年に一回だけ聞く声を今まで何回聞きましたか? と聞かれたら、むしろみんな自分の年齢から推測するところであって、実際に聞いたことを思い返すことはしないだろう。できないかもしれない。オレだって同じ質問されたら、36回は聞いてるはず、と答えるところだ。青血の乙女が『あなたの人生に幸おおからんことを』と声をかけて下さったのは昨日のことのように思い出せるけれども、それももうだいぶ昔の話だ。初めてが何歳の時だったとか、結局何度聞いたとかそういうのはさっぱり思い出せない。そういうものだと思う。


「えっとね、それでたしか『ミ……」

「ああ、いいのいいの。呼ばれた回数だけ聞きたかったから」


 ともかく思いの外真面目にこの子は答えてくれて、その結果が7を上回った。多少の差異はあれど、二桁を超えたかどうかくらいは信用してもいいと思う。よってこの子はヒューマンかそれに近い寿命を持つ種族であり、この子の保護者であろうお姉 メリダさんとやらはドワーフやエルフ、あるいはそのハーフなどの異人種だということになる。と思う。

 あるいはそのお姉さんの元保護者の人がそうだったのか。だとしても、それなりに人と暮らしていれば自然とその辺の違い ・・には気付くものだ。そうで無いということはやっぱりお姉さんが異人種なんだと思う。


「というか、お姉さんに言われなかったの? そのことあんまり詳しく人に話しちゃダメだって」

「んー? んーん。いわれてない」

「そ、そうか」


 あれ? 真名を人に教えてはいけないのって常識じゃなかったのか? 普通はあれが真名なのだということと一緒に習うのだと思うのだが。少なくともオレはサヴァジーさんにそう習ったし、当のサヴァジーさんにすら真名は明かしていない。ええと、なんだっけな。何かダメな理由があったと思ったんだけど……そう、確か真名を知られると魔王に操られるからだったか。魔王がいなくなった今でも、世界の果てや魔物といった存在からわかるように、世界はその軛から完全に解き放たれたわけでは無い。ので、真名はばらしてはいけない。よし。そんな感じ。


「ええとな、あの時聞こえるのは『真名』って言って、神様がつけてくれる君の本当の名前なんだ」

「かみさま? あれ、かみさまっておとうさんやおかあさんだよね」

「……えー」

「だってわたしをつくってくれたひとなんでしょ?」


 いかん、この子の神世界観 しゅうきょうかんが理解できないぞ。お姉……メリ……お姉さんとやらはこの子に何を教えているんだ。

 いや、というか極端に間違ってはいないんだけど所々穴だらけだというか、なんだかなぁ。


「神様っていうのは、この世界を作った人だよ。この世界を作ったってことは、オレや君や、そのお父さんやお母さんや、そのまたお母さんやお父さんにそのまたそのまたお父さんやお母さんも、そのずっと先の人たちも作ったってことなんだ。だから君を作ってくれた人でもある」

「んー……?」


 神とは人では無いのだから、本来は『この世界を作った存在』というべきなのだけど、ことさら分かりにくくすることも無いしこの場合は『この世界を作った人』でいいよな。だいたい正確に言うなら、青血の乙女は神じゃ無い。神と対等で、神が来る前にこの世界を作った人の妻 ・・・。だ

 しかしなんでこんなところでオレは神様の説明なんてしてるんだろう。商売の話をしたいはずなのに。


「じゃあ、わたしのなまえはマティスじゃないんだ……」

「いや、だから、真名は神様にしか呼ばれないんだから君はマティスでいいんだよ」

「えーと?」

「君の名前はマティス。それで間違い無い!」

「う、うん? わかった」

「よし」


 余計なことを一気に話しすぎたんだな。これからしばらく一緒にいるんだし、神話あたりから普通に説明すればすぐなんとかなるだろう……いや、そんな義理も無い、のか? うーん? 別にそんな重要なことでも無いよな。実際問題真名がわかったところでどうこうできる人がいるわけじゃ無いんだし。

 あ、でも一応国としてのルールなわけだし、そういうのちゃんとしてないと領主であるライゴやサヴァジーさんの責任問題とかになったりなったりするのかな? それはそれで面倒くさそうだけど……別に皇都からの視察とかが来たの見たことあるわけじゃ無いしなぁ。まあ、来てないわけじゃ無いんだろうけど、30年弱遭遇してないとなると、意図して会わないように手を回されてるんじゃ無いか?

 いや、無い。意味が無いもん。

 というか、そもそもなんでオレがライゴの後始末のことを考えてるんだ? そういうのは後で一言教えてやったらそれでいいだろ。やめやめ。


「じゃあ改めてお仕事の話をしようか」

「えー……」

「何?」

「けっきょくかみさまがわたしのなまえよんだからなんなの?」


 あー……あー、いろいろ頭から抜け落ちてたな。


「じゃあ、お姉さんの人種何?」


 いやまあじゃあってことは無いんだけどさ。

いつもよんでくださってありがとうございます。

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