第29景
『おい、朝だぞ』
「ん?」
んんん……あったかい布団、あったかい布団、あったかい布団。
寝袋も悪く無いけどやっぱり布団がいいよねぇ。下が平らで寝返り打ち放題なのもいいし、したが開けてるから軟膏の匂いがしたから湧いてきたりもしないし。あと自分以外の匂いがするのもなんか安心するっていうか……
「っと、言ってる場合じゃ無いか。突っかけ どこやったっけ」
人ん家 で人の布団で惰眠をむさぼるのは楽しいけれど、礼儀とかを考えれば正しい行為とは言えない。行商人の名を名乗る以上、貸し借りは折り目正しく行わないとね。ちなみに貸しとはもちろんお茶をおごったことだが。
ところで本当に突っかけ どこいった。自分の部屋はちゃんと綺麗にしてるけど、さすがに他人の家はそこまで信用してない。特にエヴァンの建物は基本的に床が板張りだからな。金持ちなんだから生き物の毛皮でも敷けばいいと思うんだが、エヴァンの人たちは曰く樹木とともに生きているそうなので、床でも壁でも何でもかんでも生木をむき出しにするそうなのだ。椅子も机も生である。怠惰にだらけて生きる(ようにオレには見える)彼らの唯一の矜持らしいが、時々棘が刺さる。噂によるとそのせいで蒸留酒 が発展したのだとか。
あのうまい酒の一部が単なる消毒に使われるというのはなかなか許しがたいものがあるんだが。昨晩ライゴの部屋にあった蒸留酒も、いざ指先に怪我でもすれば杯 一杯分が無駄になることだろう。
ああ、あった。脱ぎ捨てた外套の下だったか。
『お前なぁ……確かに大丈夫だったけど、いくら知り合いとはいえ他人の家で無防備すぎるぞ』
「なんだ突然。お前はオレの保護者かっての」
『普段のお前とは似ても似つかないって言ってるんだよ』
「そらそうだろ。普段とは違うんだから」
魔剣 との付き合いは半生と言えるだけの期間だが、ともに旅をするようになったのは最近だ。
それ以前は現在アンテが経営してる宿兼食堂で仕事をしていたし、理由があって旅をするときは置いていった。あの頃は身内……いや、第二の親と言ってもいいサヴァジーさんにすらこいつのことは隠していた。いや、第二の親も何も産んでくれた一人目は顔も何も知らないのだから、第二も何も無いかもしれない。ただ親と慕ってもいいくらいだ。
まあ、無いけど。感覚的にはあくまで第二。
ともかく、そんなつもりはなかったけどこいつには何もかもを警戒する姿しか見せてないかもしれない。
もしそれが伝わっているんだとしたらオレの言いようは理不尽なのかもしれないけど、少なくともアンテが用意してくれた宿の部屋では心安らかに過ごしてるわけだし、こいつにとってはどうでもあれは本質的にはオレの家じゃ無いのだ。他にも同じように安心して過ごす場所があって何が悪いのか。
……もしかして友達いないやつとか思われてるんだろうか。喋る剣に? それとも気を許す相手という概念が理解できないとか。アンテがどうのではなくて、場所の座標だけでオレが安心できる場所かどうかを判断してると思ってるとか。
うん、変なこと考えるのやめよう。
『あいつお前のなんなんだよ』
「オレらの弟分だよ? 普通に」
『普通ってなんだよ』
「だからお前が何を気にしてるのかわからないって意味だ」
『うぬぬ』
お前唸ったりするくらいなら黙るもんだと思ってたよ。最初は。
「それで、聞きたいこと無いんならオレそろそろ部屋を出ようと思うんだけど」
『なんつーかな、お前なんであんなに……ライゴだっけ? あれ信用してるんだよ』
「弟分だから」
『わからん……さっぱりわからん』
「まあいいや、そろそろ徹夜明けで死にかけたライゴが転がり込んでくるし、寝床明けてやらねーと」
『は?』
「あ、来た」
Bam .
派手な音とともに扉が揺れる。気のせいか寝床の上で魔剣が跳ねたようですらあった。
Bam ! Bam !! Bam !!!
音がどんどん大きくなってこちらに近づいてくる。うん。剣は驚いてるようだけど、そんなに珍しいことじゃ無い。彼は眠さが限界を突破するとよくこうなるのだ。廊下の壁に頭をぶつけながら近づいてきているのだろう。
Clatter ......Clank ! Bang !!
『おおおおおおおおおお!? おい、大丈夫か! 大丈夫なのか!?』
音に驚いているのか魔剣 はぎゃあぎゃあ騒いているけれど、別にどうにもなってない。
多少目が血走って、数時間前とは違って髭がぼうぼうになって髪の毛がぼさぼさに乱れているし、その上廊下で脱ぎ捨てたのだろう、下帯 以外身につけていなかったりもするけれど、それもまあいつものことだ。服を着て寝ると寝てる間にすべて脱いでしまうくらいだからな。別段珍しくも無い。
「ほらこっちだこっち、おいでおいで……全くお前がうるさいせいででてく暇がなくなったじゃ無いか」
『お前なんかこいつにおおらかすぎないか!?』
「そんなこと無いと思うけど」
魔剣 に愚痴を言いながら、中腰できょろきょろしているライゴに手招きをする。するとライゴは血走らせた目を剥き、まるで何かを求めるように手を突き出して近づいてくる。いつものことなので中途半端に突き出されたその手を受け止て寝床の上に引き上げると、足元が柔らかくなって戸惑った様子を見せたので足を払って布団の上に転がし、手で顔の上半分を抑える。それだけで彼は動かなくなった。そうそう。この状態で視界が暗くなるとそのまま寝ちゃうんだよね。何も変わってない。可愛いもんだ。
「よしよし、お疲れさん」
『……なんだかなぁ』
「何言いたいのか知らないけど、さっさと出かけるぞー」
いつも読んでくださってありがとうございます。
なんかこう、外で人殺してばっかりいることの対比的な話を書きたかったというか。
全体的にキャラの動きが極端になってる気だがします。




