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第28景

いつも読んでくださってありがとうございます。

 あとはまあ、常識で考えても女性の個人商人が珍しいのは確かか。隊商の一人としてや、単に女の商人というならそう珍しくは無いだろうけど、数が多く無いのも確かだ。

 でも言い方はあくまで『あまり聞かない』だったからなぁ……まあ、深く考えるのはやめよう。


「それじゃ、今日のところは失礼します。しばらく滞在するので」

「ああ、そうなのですか。こちらの部屋を一室お貸ししましょうか?」

「……いいえ、今晩のところは宿のあてがあるので。もしかしたら明日以降はお邪魔するかもしれません」

「そうですか。わかりました」


 付き合い こういうのは結局時間がものをいう。そう思って一瞬迷ったけど、今日のところは先約があるのだと思い返した。逆に言えば長く時間をかけて作った付き合いは、それはそれで大事なものなのだから。


『なんだ、結局戻るのか』

「!」

「どうかしました?」

「い、いえ、なんでも無いです。失礼します」

「はい。それでは何かあったらまたお越しください」


 ……。

 突然話しかけてきた『魔剣 サーシス』に驚いて、少し反応してしまった。昔から慣れなければいけないのだとは思っているのだけど、どうしても慣れない。

 っていうか外で話しかけるなというのに。

 本人も悪いと思ってるのかボソッとした呟きみたいなものだったし、無視しているにもかかわらず何も言われない。つまり大したことじゃ無いんだろうけど……じゃあなんで今話しかけたんだ、こいつ。こいつに限って思わず喋るなんてことは無いはずだ。本人曰く、喋るのには結構気合を入れているらしいし。

 ……うーん、問いただそうにもこんなとこで話しかけるわけにはいかないし、一旦保留で。

 とりあえず、旅装も最低限で食べ物や水の用意もほとんどしてないし、まずは明日の朝食の買い物をして、それからあいつのところに戻ろう。どうせならあいつの分も買おうか。相変わらず疲れてるみたいだし、卵とか精が付きそうな物がいいかな? でもあいつ普段から結構いいもん喰ってそうなんだよな。変な気遣いはしないで普通の方がいいのか?

 わからん。まあ、どうせ卵はオレも食べたいし、その場の気分で決めればいいか。

 ……。


 …………。


 ………………。

 うん、こんなもんだな。果物と、芋と鳥の卵ばっかりだけど胡桃 くるみもあるし、胡桃入りの芋餅 イモパンに果物の和え物 サラダでもあればかなり豪華な朝食になる。あとはミルクでもあればいいのだが、この辺ではあまり見かけないんだよな。運ぶのが結構大変だし、以前無理に連れてきた乳牛は高いところに暮らすことが抑圧感 ストレスに感じたのか、乳は出さないわ飯がのどを通らないわ……挙句暴走して投身自殺してしまった。

 あの失敗がなければ、もう少しこの都市も社交的だったかもしれない。そう思うとつくづく惜しいことをしたものだ。次のチャンスがあれば、あらかじめ高い場所に慣れている個体を探すか、高い場所に慣らしてから連れてこよう……でも旅に耐える柔軟性もいるんだよな。両方兼ね備えたのなんてそうそう見つかるんだろうか。


「……っとだめだだめだ。油断するとうっかり商売のことを考えちゃうな、サヴァジーさんに仕込まれた堅実志向が顔を出す。今は冒険する時なんだから、そういうのふりきらないと」

『そこは堅実でいいんじゃ無いか?』

「いーやだめだね。思い切るなら思い切らないと対応が中途半端になる。無駄になる可能性が高いって言ってろくに吟味しないで牛を連れてった結果がアレさ。だったら最初から全力でやる気になって牛にも気を使うべきだったんだ」

『そういうもんか』

「おう……って答えちゃったじゃ無いか! 外で話しかけるなってば!」

『いや、ぶっちゃけこの後もずっと外だろう?』


 この場合の外、とはつまり、人に会話を聞かれる心配が無い場所のことだ。そもそも宿が無いこの都市でそんな場所は得られる可能性は低い。そのうえ今日は領主の家の一室を借りるつもりなわけだからまず無理だし、明日以降は行商人の集合宿を使うだろう、ますます無理だ。


「う、まあな。少なくとも三日はここに留まるから、その間誰もいない場所に行くことはほとんど無いと思う」

『なら今のうちに喋っておきたくてな。どうせ周りには酔っぱらいしか居ないみたいだし』

「うぬぬ……だからってなぁ……」

『それに聞いておきたいことがあったし』

「うん?」

『お前、気づいてるか?』


 57の足を出した女装が痛々しいかもしれないってことなら……まあ、でも見て損をするような仕上がりじゃ無いよ。一年180日24時間一分一秒、たとえ丸一日歩いてたってそれには揺るぎないね。

 ……さすがにそろそろ普段着に戻りたいけど。


『いや、確かにさっきの女はお前の足ちらちら見てたけどな。そっちじゃ無い』

「じゃあライゴ……領主のことか?」

『あいつライゴっていうのか』

「正確にはライ・ゴーダナだったかな。みんなでライゴって呼んでたから、今でもそう呼んでるけど」

『あいつ、お前のことすごい見てるぞ』

「まあ、なんてったって頼れる先輩だからな」

あれで ・・・? というかそうじゃなくてな……』


 なんか歯切れ悪いな。なんだよ。

前回書き忘れましたが、主人公テルナの本名は『アンテカルナ・カルテルナ』。

だいぶ書きそびれてましたけど、領主くんの本名は『ライ・ゴーダナ』です。

まあ、領主くんの方は名前つけるの忘れてただけなんですが。

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