第27景
(でも正直、割に合わないというか……)
何かに納得するようにこちらを見ている女性を見返しながら、頭の中で旅程を確認する。
正直に言えばあまりオレ自身の目的とは噛み合わない話だ。今回このエヴァンに来たのは、何方 かと言えば目的地に近い方角 で盗賊討伐の依頼が出ていたというだけで、この場所自体が目的だったわけじゃ無い。というか、そもそもは一度イドゥシヤンに戻ってから、もっと別の方角の街へ行くつもりだったんだ。
位置的に考えればイドゥシヤンとエヴァンを結ぶ直線を鏡面として、ガーンジエッタのちょうど反対側。ガーンジエッタを石と樹木の都市だとすれば、土と鉄の都市ダグマ。
その主な特産品は鉄であり、土……つまり陶器。
当然、それらの元となる鉄鉱石なり粘土なりは地面を掘って得るものなので、他にも色々と掘り出すことがある。すぐに国に召し上げられてしまいはするものの、宝石類に関して現在もっとも詳しいのはこの都市だろう。彼らは鉱物資源の鉱脈を求めて、定期的に調査員たちをあちこちの都市に派遣しているのだ。
そして何よりその近隣にはかつてドワーフが住んでいただろうと推測される洞窟がある。現在は何ものも住んでいないし中も荒らされてしまって久しいはずだけど、かつてこの世界で金や宝石の扱いにもっとも長けていた人種の住まいなのだ。今回オレに支払われた水晶に関するなんらかの答えがあるかもしれない。
だが、残念なことに、エヴァンを中継した交易路とはあまり関係が無い。
彼らは主な嗜好品をより近い別の都市を経由する路 で仕入れることができるため、エヴァンを経由する必要が無いのだ。しかもこちらと違って鉄や陶器を運ぶ路 と共通なので、別路の需要があまり無い。従って交易路を使わなければエヴァンを経由してダグマを目指しても構わないのだが、エヴァンの交易路のために何かすることが今の私と関係あるかといえばそうでは無い。ということになる。
別にいますぐ聞けるというなら話を聞くくらい構わないかもしれないけれど、ここでこの女性の信頼を得て上に話を通してもらい、その上でこの付近の街道を管理している人間会うなどというのは手間がかかりすぎる。
ちなみに赤札の権威はあまり同業者である商人には効かない。赤札持ち同士が好敵手である以上、多少の信頼はあっても無駄な信用は無いのだ。彼らの儲けはひとえに我々をいかにうまく使うかにかかっていると言っても過言では無いのだから当然のことだろう。
……ん? 赤札持ちは好敵手?
「そういえば、あなたは赤札を見るのは初めてなんですか?」
「はい?」
「いや、女性で赤札持ちの個人はあまり聞かない……とか言ってたから」
結構細かい評価だ。あまりも何も、そもそも赤札を持つ女性行商人は極めて少くせいぜい5人程度。同時にサヴァジーさんが偉大なる隊商長 だけあって、その弟子で個人商人なんてオレしかいないはずだ。にもかかわらずこの女性はあまり聞かない と言った。つまり女性の赤札持ちか、個人の赤札持ち、もしくはその両方を見たことがあるということになる。
ここに来る前はきっと別の都市で商人をしていたのだろうけれど、それだってそんなものにそうそう会うとも思えないのだ。なんらかの理由があると考えるのは当然だろう。一応、赤札を更新する同輩にあったことがあるという可能性はあるけれど、それを見て個人だと判断するのも変な話だ。
もしかしたら。
「会ったことがあるんですか? この都市で赤札を持つ女性の行商人に」
ウルルジュアがここを通ったのかもしれない。オレはあいつがここ最近どんな仕事をしていたのか知らないんだ。もしかしたら赤札の交換時期みたいに、あらかじめある程度の稼ぎを用意した上で一人で行動していた可能性もある。
「いいえ、別の場所でです。ウルルジュアさんという方に」
「別の場所ですか。それは最近?」
「それを答えるのは仁義にもとります」
「そりゃそうだ」
ウルルジュアは当たり。
あまり聞かないということは、その時の彼女は一人じゃなかったんだろう。もしその時の彼女が一人だったのなら今のオレをそれほど珍しくは思わなかったはずだ。珍しいですね、くらいが妥当な評価だと思う。なんとなくだけど。
同時に女性行商人に関してまっとうに調べたのだったら、やはりあまり聞かないなんて中途半端な評価では無いはずだろう。いままでそこそこ見てきた行商人の中に個人で行動していた男性行商人と隊商を率いている女性行商人がおり、なんらかの理由で女性行商人は隊商を率いてるものだと思っていたということになる。
だんだん自分でも何を考察してるのかわからなくなってきたな。
結論はこうだ。
彼女は何人かの女性隊商長 にあったことがあり、比較的最近あったウルルジュアの名前をつい出してしまった。その時いたのはおそらくこのエヴァンの近隣都市、ガーンジエッタかダグマだ、と。
「そう思えば多少は張り込み甲斐もある、か」
「張り込み?」
「ああ、こっちの話です」
いつも読んでくでくださってありがとうございます。




