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第24景

いつも読んでくださってありがとうございます。

遅刻してしまってすいません。

 エヴァンというのは、上の階級の人間になればなるほど仕事は夜が忙しい。

 それはもちろん、昼間じゃ無いと酒を飲めないのに昼間に働いてられるかー! っていう、退廃的で欲望に忠実な理由……なんてことはもちろん無い。

 ……いや、無いことも無いのか? 少なくとも一般の人たちは朝の暗い頃から起き出して、日が出ると同時に仕事を始める。そして昼過ぎに仕事を終え、まだ明るいうちに酒を嗜んだり夕食を済ませたりする……という本来の規則をほとんど守っていない。家で飲めばばれないだとか、夜働いて昼に酒をかっ食らうとか、そういう暮らしをする人間がざらにいる。そして、厄介なことにちゃんとその規則を守る人間もいるのだ。

 結果あちこちでいさかいが起きる。それもなぜか夜に頻繁に起きる。

 多分、国が無駄に豊かなのが悪いんだろう。自然に実る木の実、蔓になる芋のようなもの、果実、きのこ。枝葉に住まう鳥とその卵、あるいは蜂が作る巣から取れる蜂蜜。幾つかの樹木は幹を傷つければ水をいくらでも出すし、別の木が出す樹液は燃料になる。

 こんなのが天然で取り放題だ。そりゃあ、気も緩むし怠け者にもなろう。喧嘩っ早くもなるものだ。

 こういったことを取り締まるために自警団があり、彼らの活動が遅い時間になれば、衛兵がいる。それらを統括するのが領主であれば、そりゃ領主の仕事は夜の方が忙しくなるのも無理は無い。

 したがって、人のだらしなさが彼らの仕事を遅い時間に追い込んでいることに間違いは無いわけだ。

 彼ら、すなわちこの場合は領主だな。

 今目の間にいて、オレの説明を受ける彼はつくづく疲れた顔をしている。


「そういうわけだから、また衛兵に援護を回すべきだと思うんだ」

「了解しました。早急に表に人を回します」

「ん、それとこっちの首は……自警団はどこに?」

「彼らは今下で仕事をしておりますが、それは駐在商人の方にお願いします」

「そうか」


 彼が机の上に置かれた鈴を振ると、隣室に続くであろう扉から一人の男が現れた。二言三言何かを告げると、その男は部屋を出て行った。多分部下でも呼んでるんだろう、人の名前を叫ぶ声が聞こえる。

 オレも続いて部屋を出ようとすると後ろから盛大なため息が聞こえた。


「しかし衛兵たちが弱いのはどうにかならないのか……」

「それはもう、よそで鍛えるようにするしか無ないんじゃないかな?」

「そうしたら帰ってこないんですよ……」

「あー」


 声質は軽やかなのに、その声はひたすらに重く疲れが滲んでいる。仕事が辛いんだろう。

 まだ50なのにこんな仕事につかされた彼は、はっきり言って年齢より老けて見える。いつも顰め面をしているせいで目元と額に皺がより、もう何年も消えてないだろう隈は濃く深い。肌もかなり荒れているし額も広くなりつつある。可愛かった10歳20歳の頃の面影はまだ残っているけれど、それでも知らない人に聞けば80代という答えが返ってきても不思議は無いだろう。

 昔は可愛かったなぁ。あのまま育ったら凛々しい好青年になっただろうに。こんな仕事についちゃって……いや、指名したのサヴァジーさんで推薦したのオレだけどさ、この中で一番誠実に仕事できそうなのどいつ? って聞かれて素直に答えただけだよ。オレは悪く無い。

 実際仕事はちゃんとこなしてるしね。


「ところで未だにオレに敬語使うんだね。立場は君の方が上な訳だが」

「やめてください。俺の方が年下なのに変わりは無いんです……はぁ」


 それにしても幸薄そうな顔になったもんだ。美人薄明って、美しい顔も年とともにすぐに失われるってことだったのかな。


「どうした……って聞くまでも無いけどな。状況が状況だし」

「いや、聞いてくださいよ」

「……どうした?」

「俺も行商人になりたかった!」


 叫びながら両手を机に叩きつけて彼は立ち上がった。

 おー。なんとなく気持ちはわかる。でも儲かってるんだろう? この棚に置いてある樽、結構いい匂いしてるぞ。


「そうか」

「一生この仕事するのは嫌ですよぅ」

「泣くなよ大人にもなってみっともない。まだ15年だろう? オレなんて20年以上不本意な仕事してたんだぞ」

「あなたのそれは絶対に免れないものでしょう」

「いいや、あんなとこで出会わない限りはオレは絶対に逃げ切って見せた! ことと次第によっちゃサヴァジーさんと決闘してでも逃げ切ってやったさ!」

「世の親に喧嘩売ってますね」

「オレの人生だ。そんなのが怖くて行商人になれるか!」

「あー……だから俺行商人になれなかったんですね。親に逆らうのが怖かったもんなぁ」

「……多分クーバンは親に屈して行商人になったんだぞ?」

「逃げるくらいだったら変わって欲しかった」

「あいつに領主が務まるわけないだろ」


 んー……これは果実の蒸留酒だな。うん。葡萄だ。そうだな、軽く沸かして……蜂蜜はこの瓶か。あとは確か鞄の中に肉桂 シナモンがあったはずで、檸檬とか柑橘系の果物があれば完璧なわけだけど……籠にりんごしか入ってない。そういえばこいつ酸っぱいの嫌いだったっけ。

 香りくらいならあってもいいと思うんだけど。


「あ、ちょっと、この時間はお酒禁止ですよ」

酒精 アルコールはちゃんと飛ばすさ。お前にもやるから」

「そもそも俺のです!」

クエン酸には疲労回復効果、蜂蜜は殺菌効果、シナモンには解熱効果なんかがあるそうです。

珍しく『美人薄命』という日本の四文字熟語が出てきましたが、適当な改変が思い浮かばなかったんです。すいません。

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