第22景
「うーっす。見張りご苦労様ー」
首入りの袋を掲げて努めて明るく、軽く声を張る。
街についたのは案の定日が暮れた頃だった。
正確には、都市の入り口である崖に張られた2本の吊り橋の前に着いたのが、か。まだ都市には入れていない。
そこには日中日陰を作るために一本の大きな木があり、その横に3人の革鎧を着込んだ人間が槍を持って立っていた。この街の衛兵だ。2本の橋に3人の衛兵というのが多いのか少ないのかわからないが、この都市全体で衛兵と呼ばれる人間彼らとその交代要員で合計10人程度とかなり少ない。なんたって樹上都市エヴァンの入り口はこれ一つだけということになっている、実際いろいろ調べてはみたけれど、今の所俺は他の侵入手段を見つけてはいない。当然、隊商からは人気がなく、来るのは個人の行商人だ。
ちなみに出る手段はかなり多い。死を辞さぬ覚悟があればな。オレはごめんこうむる。
そして当然のことだけど、酔っ払った拍子にうっかり非正規の手段で都市を出てしまう危険があるから夜は飲酒が禁止されているし、喧嘩の拍子にうっかり都市から相手を追い出してしまう危険もあるからか、治安は悪く無い。
「遅い時間で悪いけど、街に入れてくれるかな?」
「あ、赤札を持ってらっしゃるんですね。お疲れ様です!」
従ってこの衛兵達は少ないだけじゃなくてとても弱い。
「はいダウトー!」
袋を手放し、その中に隠し持っていた機械弓 で真まずん中のやつの股間を撃ち抜く。続いて、袋から転がり出た生首に気をとられた左のやつに全力で体当たり。その手の槍を奪い取り、3人目が構える前に棒を振り抜く要領で顔面を横に打ち抜く。あっという間に3人が地面に倒れた。
ここの衛兵はとても弱い。だからこうして時々偽物に入れ替わっている。
大概の場合はすぐに気づかれて、実は衛兵よりずっと強い自警団の人とか消防団の人とかにボッコボコにされて捕まるのだけど、ほんの時々こうやって都市に入ろうとする人間の前で待ち構えている。
「ちなみにダウトってのは、異邦の言葉で嘘って意味らしいぜ」
『その台詞必要か?』
「黙ってろ」
魔剣のちゃちゃを切り捨てて、機械弓に新しい矢をつがえて少し距離を開けた。
先にも述べたが、この都市は隊商に人気が無い。今の所これといった特産物品がなく、また人が一人通れるくらいの橋が二本あるだけのこの街に、馬車などが乗り入れられるわけも無いから当然だろう。従って、例外的に赤札持ちの往来が少ない都市であり……同時に赤札の権威が強いのである。
個人的には赤札のことなんか忘れて普通に行商人を排出する努力とかすればいいと思うんだけど、その辺はもうサヴァジーさんの威光が刷り込まれてるんだよな。多分。そんなわけで赤札持ちを見て『あ、赤札を持ってらっしゃるんですね。』なんて馬鹿はいない。どんな新人でも赤札持ちの顔は似顔絵で覚えさせられているし、赤札を見た瞬間都市に向かって伝令として一人は走りだして鍵穴を取りに行く。
というかそれ以前に、赤札は通称であって正式名称は『王定領主ドンクラス認定赤色通商証』である。衛兵ならこれを『商証』と呼ばないと論外なのだ。たとえ一人がうっかり口を滑らせても、あとの二人が即座に訂正を入れなければならない。こっちだってこうして赤札を掲げる時は遊びじゃ無いんだ。
もし彼らが本物の衛兵だとしても論外であることに違いは無い。
「さて、本物をどうしたか教えてもらおうか」
ちなみに、本物が殺されている可能性は案外低い。殺しと騙しでは罪の重さがまったく違う。まず利益があり、その上ばれないように気を使える道中の野盗はともかく、こうして衛兵に成り済ませばなんらかの利益に結びつく前にばれる可能性は極めて高いのだ。その際殺していれば確実に逃げられない。というか逃がしてもらえないけれど、拐かして騙す程度なら都市側も警戒を強めるだけで無理やり追いかけようとはしない。
それが甘いと思うかは知らないけれど、世の中ただ殺せばいいというものでは無いのだ。
まあ、魔剣にはほぼ確実にお前が言うなと罵られるだろうけど。
「そ、そこの木の上に吊ってあります」
「ん……? ああ、あの緑の塊か。いや、緑じゃ無いな、なんかいろんな色が混じってる」
言われてみれば、木の上に葉っぱの陰に隠れた妙な塊があった。歩いてきてる最中には視界に収まっていたはずだけど、まっったく気になった覚えが無い。
「親分が作ってました。迷彩っていうらしいです」
「へえ、面白いな。あれは個人で回収させてもーらおっと」
ただ、まったく動きが無いのが気になるな。これだけ近くで騒いでるのにもがきもしなければ呻きもしない。よっぽどいい薬でも使ってるんだろうか……もしかしてこいつら3人、結構でかい組織の人間だったりするのかもしれない。うーん……早まったかなぁ。
……まあいいか。
「じゃあお前ら仲間連れてとっとと帰れ。実質怪我してんのそいつ一人だろ」
……まあ泡吹いて白目むいてるけど、二人いれば担いでいけるだろ。えーっと、オレはどうしようかな。街に入る前に代わりの衛兵呼ばないと身動き取れないよな?
とりあえず首を集めるところから始めるか。
いつも読んでくださってありがとうございます。
余談ですが、主人公の機械弓は矢を打つのではなく、ワムウとジョセフが使ってたような鉄球を飛ばすタイプのやつです。




