表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/44

第21景

『しかし、生首四つも抱えてたら捕まるんじゃ無いか?』

「ないない。エヴァンもサヴァジーさんの管理都市の一つだぜ。こっちには赤札があるんだよ」

『赤札……?』

「これだよこれ……ってどうやって見せればいいのかわからねーな」


 懐から引っ張り出した赤い木の板を掲げるも、剣のどこに見せればいいのかわからない。見えてるのは確実なんだけどなー。どこで見てんのかなー。


『いい、見えた。あの鍵な』

「まあ、鍵だな」


 もしくは割り符。

 なんかサヴァジーさんが病的なまでに偽造対策をしたそれは、簡潔に言うと朱塗りの木片に収められた鍵である。

 彼が認めた弟子には鍵が配られ、彼が管理する……あるいは彼が訪れた彼を認める都市には鍵穴が配られる。鍵を開けることができたら本物で、できなければ違うと、字面だけ見ると大したこと無いのだけど、これがなかなかに複雑怪奇な代物なのだ。

 まず鍵が一つだけなのにもかかわらず都市ごとに鍵穴が違うこと。これにより、都市側が鍵穴をもとに鍵である赤札を偽造しても、他の都市では通用しないことになる。

 次に鍵が三つの部品で構成されていること。鍵を開けた時鍵穴に残る羽と呼ばれる部品が二つと、それを支持する芯というか、核のような部品が一つで合わせて三つ。完全な……というか本物の赤札なら鍵穴に残った羽を取り出すには揃いの芯か、サヴァジーさんのところにある上位の鍵が必要になる。よって赤札の持ち主が犯罪を起こした場合、鍵穴に残った羽から誰がやったのか把握できるし、鍵穴から偽造された鍵かどうかも判断できる。

 難点は、赤札の持ち主が何者かに襲撃されて鍵を奪われた場合、及びそれが複製された時に対処できない点だ。都市ぐるみで行商人を陥れて鍵を奪うということもあるか。一応それの対策として、2年ごとにサヴァジーさんが都市を出回って鍵穴の更新をしている。オレ達赤札持ちは、そのサヴァジーさんを追っかけまわして赤札を新しいものに交換してもらわなきゃいけない。信じられるか? 雨季の冬真っ只中にだぜ。しかも古い赤札のままだと都市でサヴァジーさんの居場所が聞けないから、自分の足と不確かな情報で走り回らないといけない。

 いや、それでもオレみたいに一人でやってるやつは楽な方だ。本来隊商を連れてる連中は、この期間ほとんど仕事ができなくなるので、それ対策に十分仲間が食ってけるように稼いで備えなければならない。もちろん小さな村や町、ウッシュバーンヘのようにサヴァジーさんと直接関わりが無い都市なら赤札がなくても商売はできるのだけど、更新が遅れればそれだけその後の大きな都市での商売は滞るのだ。

 しかも一定期間内にサヴァジーさんを捕まえないと一ヶ月研修という名のしごきがある。辛い。

 っていうか隊商長キャラバンリーダー達はこれを受けると活動が滞る上に部下からの信頼を失う。

 まさに進むも地獄、戻るも地獄なのであった。


 ちなみに都市が行商人をはめて赤札を奪おうとした事件が三件、盗賊に殺されて奪われた事件が一件、都市が発行した偽造赤札を持った似非行商人が出回った事件が十二件あった。

 盗賊に奪われた一件は置いといて、そういうことするから赤札無しで行商できなくなるんだよと言いたい。こっちはいい迷惑だ。いや、貰った当時は師匠に認められたと思って嬉しかったけど、年々赤札を見せないと門も通してもらえなさそうな空気になってきて本当にやりづらい。

 まあ、赤札をこれから振りかざして都市に入ろうとしてるのに言うことじゃ無いのはわかってるけどな。


『それで、その鍵がどうしたんだ』

「身分証になってんの。これがあればオレが何者か保証されるってね」

『ほほー、便利なシステムだな』


 ちなみに現在5つの大都市と11の小都市で有効である。あといくつかの町や村だと朱塗りの木の板を見せるだけでいい目を見れるなんて噂もあるけど、基本的に俺は都市以外では赤札を使わないことにしてるので実体験は無い。

 はっきり言って宝飾剣サーシスなんぞよりよっぽど物取りの目を引くのだ。

 さすがに平地とかで5人を超える野盗に襲われたらオレだって逃げ切れるはずが無い。っていうか状況に沿って罠でも仕掛けない限りは2対1でも厳しい。ちょっと鍛えた大男くらいなら1対1で勝てる自信はあるんだけどな。

 そもそも罠無しで戦うとか想像したくも無いけど。

 最悪に気分悪い。


「『仕組み』だろ。オレもそう思うよ。もっと緩い仕組みならなおいい」

『緩い?』

「都市に所属する人間がみんな同じ鍵を持つ市民鍵しみんけんとか考えたけど、鍵を持たぬ者は人にあらず……みたいなことになると面倒だなーって」

『市民とそうじゃ無い人間を区別する必要ってあるのか?』

「……お前の話し口って、何を理解して何を理解してないのかがわからねーんだよな」

『俺はお前が何を言いたいのかわからねーよ』


 ちなみに市民とそうじゃ無い人間の違いは、都市の居住権や一部施設の割引利用権、それに伴う税を払っているか否かである。

 ちなみに税は二月に一度専門家が各家を回って税を要求する証書を配り歩き、翌月別の担当がその証書と税を回収するというやり方だ。回収する人間と要求する人間が別なのは、こっそり回収する人間が至福を肥やすのを防ぐためだとか。この仕組みもサヴァジーさんが発端らしいんだけど、どうももっと上がいるらしいということに最近気づいた。

 まあ、オレにはあまり関わりの無い話だ。


「エヴァンまであと4時間くらいか……あそこ夜は酒が出ないんだよなぁ」

『おーい、無視するなー』

いつも読んでくださってありがとうございます。

今回市民鍵とか書きましたが、行商人の赤札は身分証とか免許証に近いものです。

……いや、同じか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ