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第20景

 世界は丸い。そして果てがある。そう感じるのがヒューマンの限界だという。

 天地があり、四方……あるいは六方があり、それらには確かに限りがある。だけど世界にはもう一つの地平がある。決して見ることができずだけど確かに存在し、そして始まりはあっても終わることの無いもの。いや、その始まりすら捉えることはできない。想像はできても知ることはできない。記録すらそこまでは届かない。あるいは、神すらも。

 さて、『天地』『四方』に次ぐ第三の地平とはなんなのか。


『えー……そんなこといいから戻ろうぜ』

「いいから考えろよ。答え」

『無理だ。途中で思考が途切れるに決まってるだろ』

「……随分調子を取り戻してきたな」


 ちなみに答えは時間。

 それがあるからハーフリングたちは元来、世界に飽きることが無かったと言われていた。

 無かった。言われていた。どちらも過去形なのは、実際に彼らが世界が閉ざされたことに憤ってその境界を越えようとしたとされており、またその結果もれなく滅んでしたったからだ。とても不思議なことに。

 何が不思議って、それ ・・は世界が円くなった今でも変わらず存在しているはずだろう。多少四方が狭くなったところで無限の地平 じかんは変わらず存在していたはずだ。というか存在している。してるよね? 残念ながらオレはヒューマンだから天地四方に次ぐ第三の地平は知覚できないので若干不安は残る。だけどそう心配することもないだろう、してなかったら何かもっと大変なことになってると思うし。多分だけど。


「それは四角いとも言える。あるいは円いとも言える。たくさんの腕があって、馬にも負けない速い脚も持っている。だけど一人で走ることはなく、少なくとも一人は道連れがいる。いや、道連れが一人ではまだ走れない。大概の場合、道連れとは別に先導者がついている。さて、これは何ものかな」

『何が?』

「せめて考えるふりくらいしろよ……四角くて円くて腕がたくさんあって速いもの」

『俺は嘘をつかない主義だ』

「それこそ嘘だろうが」


 答えは車輪な。

 ったく、普段黙って歩いてると暇だってうるさいからこうやって喋ってるのに……まああんまり語るの上手く無いから、聞いてて楽しく無いのはわからんでも無いんだけど。


『なあもう帰ろうぜ』

「帰らないって。このままエヴァンまで行くんだから」

『エヴァンってどんな場所だっけ』

「樹上都市」

『……え、ヒューマンの国だよな?』

「国っていうか……街だけど。ヒューマンしかいないぞ」

『何でそんなとこ行くんだよ』

「そもそもエヴァンとイドゥシヤンの間の交易路で盗賊が出るって話だったから、これ持ってくならエヴァンしか無いだろ」


 頭が四つ入った袋を揺する。蛮刀は背負いかごに入れてるけど合わせると結構重たい。こればっかりは正直早まったかなぁと思わなくも無いな。いや、ほんと重いんだ。おかげでそろそろ夜なのに半日分くらいしか進んで無い。何とかしないとエヴァンにたどり着く前に一週間過ぎてしまうだろう。それはあまりにも時間がもったい無い。

 どこかで馬車でも拾えれば、用心棒として雇ってもらえるかもしれないけど……いや、そのためにはこの見た目を何とかしないとな。この格好のままじゃあ用心棒としての貫禄がなさすぎるだろう。正直髪はかなり邪魔だし。

 衝動で生きると損をするよね。知ってた。楽しいか同かは結構状況次第だし。


「というか何が聞きたいんだお前は?」

『うん? うーん……何が聞きたいんだ? 俺は』

「知るか」


 オレに聞かれてもわかるわけ無いだろ。でもまあ、候補くらいは上げてやってもいいか。


「ヒューマンなのに樹上都市を展開してる理由。樹上都市エヴァンに行く理由。そのどっちかじゃ無いか?」

『そうなのか』

「……お前が何に納得したのかいまいちわかんないな」

『まあかたっぱしから聞けば満足するだろ。何で樹上都市なんだ?』

「それオレがやたら喋らされるってことだし……エルフだったかなんかが破棄した集落を使って発展した場所だからだ」

『エルフはまだいるはずだろ』

「だから多分エルフじゃ無い人種の集落だったんじゃないか」

『エルフじゃ無いのに樹上に集落作る人種って……何がいたっけ?』

「さぁ? ドラゴナートは集落作らないらしいし、セリアーンの有翼種じゃないか。もしくはハーフエルフの集落だったから、魔王が来た時に散ったとか」


 エヴァンは少し不思議な都市だ。これもまたかつてサヴァジーさんが見つけたものではあるのだけど、彼が見つけた当時誰も住んでいない集落だったそうだ。ただ樹の上にもかかわらず畑のようなものがあり、場所によっては水を貯めるための水槽やそこから引かれた水道、鳥たちの飼育場などがそのまま残されていたため、何人かがそこに移り住むことになったらしい。そして長い試行錯誤の果てに、樹上のまま集落から都市とまで言えるものに拡大したという。

 ちなみに朝までいた崖の下の森林とは長い地続きで、このままいくと直接樹上の都市に橋を渡って入ることになる。ここで二、三日寝とまりすれば、いざあエルフの集落に訪れることがあっても物怖じしないで済むと、もっぱらオレの中で評判である。

 しかしこの都市もとい元集落が何のために存在したのか……それは今の所誰にもわからない。

いつも読んでくださってありがとうございます。

今回話題に上がったドラゴナートは竜人、セリアーンの有翼種は鳥人のことです。

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