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第18景

 よく、ハーフリングのようだと言われる。

 ハーフハーフリングなのかと、問われたこともある。

 とりあえず背が低いって喧嘩を売られてるわけじゃ無いことは断っておこう……もっとも、悪意がなきゃ何を言っていいってわけでも無いけど。


 ——捉われざる者ハーフリング——


 何ものにも鎖されぬための魔法を与えられた者。

 留厭小人るえんしょうじん

 とどまらぬこびと。


 ヒューマンやエルフ、ドワーフとともに魔王が現れた後の世界に取り残されながらも、持ち前の気性が災いし、ドワーフに先んじて滅んだとされる種族。実際に滅んだのかどうか定かでは無いが、ここ80年弱まともな目撃情報は無い……しかし逆に言えば、彼らが滅んでからまだ100年も経っていない。確かに人間の寿命はその程度だが、滅んだとされるドワーフやハーフリングの寿命はそれより随分と長い。

 にもかかわらず、ほとんどの人間がすでにその存在を忘れようとしている。理由はわかりやすく、縁が無いから。


 オレ達ヒューマンにとって、世界はめまぐるしい。


 勇者が現れて、魔王が滅ぼされて、それでめでたしめでたしで済めばよかったものの、実際そうはならないのが現実なわけで。というか、それで済む時期に魔王を倒しきれなかったのが勇者なわけで。

 この世界の中でオレ達ヒューマンが必死になって国を立て直そうとしてる時に、魔王が現れる前はそれなりに交流があった他人種達は何をしているかといえば何もしてないわけだ。滅んだとされるドワーフやハーフリングはおろか、エルフすら一向に顔を出さない。もちろん、住んでる場所が違うということが大前提で、各々自分たちの暮らしている場所を立て直すために必死なのだということをオレは知っている。オレは ・・・知ってる。要するに知らない人の方が多ずっと多いということだ。

 そして、実際に滅んだかどうかはさておいても、顔を出さないのならいないのとそう変わらない、と。


「オレは、いると確信してるけどね」

『それがよくわからないけどな。なんでだ?』

「……うーん? いてくれないと困るから、かな」


 では、思い出されるのはどんな時だろうか。

 オレは知っている。ヒューマンとは、悪意を糧にして生きる面がある人間種であるということを。


『それ、信じる理由にならないだろう』

「確信する理由にはなるんだよ……多分」


 さて、オレには親がいない。

 別にこのご時世珍しくもなんとも無いけれど、問題になったのは生き方だった。孤児は普通、近隣の村に身を寄せて村周辺の開拓に手を貸してればそれで生きていける。仕事はいくらでもある。木の股から生まれたわけじゃ無いんだから、普通に考えて物心ついた時周辺に誰もいないなんてことはない筈だ。オレもそうだった。普通に再建中の村に生まれて、なぜだか両親ともいなくて。多少こき使われるかもしれないけど、それで生きていくには十分だった……んじゃ無いかと思う。

 物心ついてから半年で家出したからちょっとその辺りが定かじゃ無い。

 ただ、四方を渡り歩き、定職につかず、あるいは獣か乞食のように暮らしていたオレの存在はいつしか噂になり、その噂の本人とはわからなくても、人はオレの暮らし方をとある種族になぞらえた。


『いつも思うんだけど、どうやって生きてたんだ?』

「……さあ? それはオレにもよくわからないんだよなぁ」

『やっぱりハーフリングの魔法じゃね』


 そう。定住できず、ヒューマンらしい暮らしのできない子供。ハーフリングと。

 元来ハーフリングは、捕まえておくことができない人種だ。犯罪の嫌疑がかかり牢などにつなごうが、刑が決まり砂漠に放りだそうが、魔法を使わせてしまえば何事もなかったかのようにその場を後にして生き残る。

 それゆえ排他的な風潮の強い地域では、その人種自体が犯罪者扱いもされていたという。

 オレはハーフリングの代名詞になり、ハーフリングはまた犯罪者の代名詞になろうとしている。

 ……もっとも、実際オレはそんな魔法が使えるわけじゃ無い。


「オレに魔力が無いのは知ってるだろ。お前使ってできるのがこれだけだ」


 『魔剣サーシス』を、首を切り落とした賊の死体に突き立てる。魔剣こいつは所有者が持ちながらも使えないでいる能力を覚醒させることができるらしい。これでハーフリングの魔法が使えるようにでもなれば自分のことについて多少諦めもつこうものだけど、実際そんなことはなかった。

 魔剣が覚醒させたというオレの能力は、死体にそれを突き立てて呪文を唱えることで……ええと、


「……呪文思い出せないからそれすらできない」

『あー……あれだろ? 死体の肉を瞬時に朽ちさせるあれ……まあ、骨格標本作る以外に使い道の無い能力だよな。死体以外には使えないし』

「生きてる相手に使えたら間違いなくお前取り上げられてるだろ」

『だよなー。ぶっちゃけ、死体の始末が楽になるから暗殺者とかなら使い勝手が良さそうなんだけどな』

「普通はなんか首とか回収しないとあれだから、あんまり使われない気がするけど」


 殺した証拠残さないと仕事にならないから威嚇にすら使えない。

 じゃなくてさ。お前知ってるんだから呪文教えろよ。まあいいけどさぁ。


『それで、あの人に師事して今に至るわけだよな』

「かなり端折るけどな。あの人に師事して、一人前になって、お前らを拾って、あいつを一人前にして、だな」

『なんで行商人だったんだよ』

「なんでって言っても……よくわからないな。ただじっとしてられなかったんだ。あと、ここにいろ! とか言われるとすっごいむかつくからかな」


 生まれた場所……というか物心ついた時にいた場所が嫌だったわけでは無いのだと気づいたのは、それなりに経ってからだ。

 結局オレはどこにもいられなかった。

 親切なおばさんに、ここにいてもいいんだよ? とか言われるだけでそこはかとなく嫌な気分になるくらいだ。まともな暮らしができるわけが無い。なんでそうなったのかはわからないし、生まれた時からずっとそうだったのが、どこで変だってことに気づいたのかすらよくわからない。

 それが間違ってるってことだけが、なんとなくわかってた。だから知りたかった。そういう生き方をする人たちのことを、そういう生き方をする人種を。

 そこに自分の根っこ……親を探したい気持ちがなかったとは言わない。だけど。


「しかしなんで最初に会っちゃったのがエルフだったのかねぇ」

『運命じゃね』


 気がついたら目標が、変わってたもんなぁ。

 世界中を、隠れてる連中を。

 ただ、見たい。


「そのためならなんでもできる」


 きっとこれは、ハーフリングが持つ魔法に裏打ちされた精神性とやらとは違うだろう。彼らはただ閉ざされることを嫌い、旅をするという。

 オレのは違う。

 見たい。欲しい。もっと。足りない。そういう俗な気持ちが前提だ。


「さて、帰るか」

『目的は遂げたしな』

「何言ってんだ、これから始まるんだよ」


 ところで時々言われるんだけど、ハーフハーフリングって語呂悪いよな。

読んでくださってありがとうございます。プロローグ完! 的な。

……しかし全然異種族出てこねぇ。やっぱりDFに組み込んだのが間違いか。

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