第16景
彼らは、まああれだ。多分はみ出しものなんだろう。
まず『盗賊の討伐依頼』というのがとても怪しい。普通連中は、自分たちの存在がばれないように細心の注意を払うのだ。それができないのは、それができない程度の連中ということ。そんなのが返り討ちにも遭わず長々盗賊をできるってのは、最低限の武器と人数があるってこと。
じゃあ最低限の武器と人数って?
4〜5人の人間がでかい蛮刀を振り回してればそれでいい。馬車一台襲うくらいなら、まあそれでいいんだ。オレほどじゃなくても馬車一台とかでやってる速度重視の商人とかが相手なら、それでいい。2台くらいまでなら、二、三人護衛がいるかもしれないけど、まだ何とかなる。いっそ、用心棒として雇われるふりをして襲撃するって手だってある。
問題はすごくわかりやすい。殺しきるには人数が足りない。
当然逃げられる。
だからこうしてオレみたいのに仕事が回ってくることになる。
「この穴さー、奥の天井あたり毒煙が漏れてるみたいでさ」
毒煙は、すぐ下の方に流れて洞窟の入り口から出て行く。この洞窟の中で長く過ごしたり、あるいは今オレが立ってるこの場所で地面に伏せてたりしない限りは何の問題もない。でも、もしそういうことをしてしまったら?
オレがこの縄の上を行くだろう、とは誰だって予想するだろう。というかそういう風に誘導したし。
そうなると当然狙いは挟み撃ちになり、ある程度浅知恵を巡らせるだろう親分は、ほとんどの子分を先に行かせる。何でかって言えば人数が多い方と少ない方、オレが逃げるのは少ない方になる可能性が高いからだ。もし、親分が先に待ち構えてオレに逃げられ、追いかけっこしながら少ない子分が待ってる場所につくとする。
子分は、ひ弱なオレを脅して確保しつつ、足元の縄を切る……かもしれない。
なんかめんどくさい言い方をしてしまったな。
要するに、人数が少ないのは待ち受ける側。この場所で追いかける側は、裏切られればすぐ死にかねない。
もちろん、向こう岸で子分が全員上手く隠れ、オレを確保した後親分をおいて逃げる……なんてこともあるかもしれないけど、その場合は割と後を追うのは簡単だと思う。だって取引を主導してたのは今まで親分なんだろう。もっとも追いかけて何をするかって別に何をできるわけでもないだろうし、裏切られて死なないってだけでも十全なきがするけど。
「この穴で待ち構えてた人たちってね、みんな死んじゃうんだ」
っていうか、奥の方とか低いところとかで息をするといきなり気絶してそのまま死んじゃうんだよね。怖いよねー。
「っていうか、洞窟を覗くときは火のついた松明放り込むのが基本でしょ? それもわかってないって、本当に役に立たない愚図だよね。あ、それともあんたはわかってたのにこいつらがそうなだけ? ……いやでも、その程度も指示できなかったんだよね」
まあ気持ちはわかるんだよ。こんな足場の場所でうろうろしてたら、しっかりした場所で休みたくなるのは。オレもわかっててここで休みたくなるし。でもね、用心を怠るようでは駄目だろう。
「それにちょっと悲鳴が聞こえただけでこっちに来ちゃうなんて、待ち伏せの意味わかってる? って話だし」
ちなみに入り口付近で待ち伏せするのが正道であろう親分は、足元の現死体がまだ生きてた頃に穴から引きずり出して手の骨を踏み砕いた時の悲鳴を聞きつけてこっちに来た。これは、ちょっと想定外だったんだけどね。特に、穴の中と入り口付近の二方しか想定してなかったのに、出口側からもう一人現れたし。
別に、一度で全滅させるのが依頼だったわけじゃない。とりあえずしばらく盗賊連中が出てこなくなりさえすればいいんだ。この三人の首だけ持ってけばしばらく活動できないだろうし、でもしばらくしたらまた活動をする。また依頼が出される。
つまり一粒で二度美味しい。
はずだったんだけど、でも見ちゃうとなー。ほっとくのはちょっと心情的に。あと、顔見知りの盗賊は存在がよろしくない。やっぱりここできっちり死んでもらわないと。
「まあ、こっちは手間が省けていいんだけどね。どうするの? 盗賊団から逃げ出した、はみ出し者の盗賊さん?」
さっきも言ったけど、潔くオレに斬り殺されてみない?
それとも、このまま足元の縄を切られて死ぬのが好み?
「強がるなよ……!」
「ん?」
「この縄がなかったら、お前だってそこから動けないんだろうが! 餓死するのを待ってまた来たっていいんだぜ!」
いや、別に縄なんてなくても、縄を張ってる杭を渡って帰れるし。そういう意味では、崖の入り口で待たれても面倒だからきっちり殺さないと駄目なんだけどね。さっきからあんたと話してる間中、後ろにいるもう一人にどれだけ気を張ってると思ってるんだ。いくら『首級』が多い方が実入りがいいからって、いつまでも待つわけじゃないぞ。
もう切ってしまって後ろのやつ追いかけようかな。できれば後ろのやつが襲いかかってくるの待ってからこれを切って相対したいんだけど。こっちが来てくれるなら速攻で後ろのを切って……うーん、舐めてる? まあ、割と甘い計算でやってるのは確かだな。
「そう、じゃあ足疲れてきたから切るね」
「待て!」
来た!
もう、目がしゃべりまくってるよ。来てくれって、オレの後ろのやつに言ってるのがすごく良く見える。よし。後ろのやつが近くまで来たら前の縄を切ろう。そのあと後ろのと戦えばいい。
「待てってなにを?」
「取引しよう」
「取引ねぇ? 材料は?」
「さっきも言ったぞ、お前だって縄が切れて餓死するのは嫌だろ!」
「それで? 命乞いしたいの?」
「馬鹿な! 金目のものよこせば見逃してやるって言ってるんだよ!」
……もうちょっとオレの関心を引くようなこと言えよ。
はぁ。
ため息をつきながら、足の指を開いて短剣を離し、ほっとした顔の馬鹿を尻目に足を大きく開いて一回転。背後に迫っていたもう一人の側頭部に蹴りを叩き込む。
「おごっ!?」
「なに!?」
ああ、長髪で隠してたんだけど、見えた? 弩。しまったな。逃げられちゃうか。
「一歩さがっ……ちっ」
怒鳴りながら慌てて振り向くと、まさに彼は逃げようとしている最中だった。
もちろん、縄の上、そんな機敏に動けるわけもないし、ほっておいても一人で落ちるかもしれない。だけど、今オレの後ろにはただ一発蹴りを浴びせただけの大男がいる。彼が落ちるのを見届ける時間がない。息を止めてしゃがみ、足元の縄を魔剣で断つ。
彼は悲鳴をあげて落ちていった。残念。杭につかまれればまだ見込みはあったのにね。
いつも読んでくださってありがとうございます。
前回ラスト、縄と短剣がロープとナイフになってますね……うっかり。




