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第14景

「というわけで、久しぶりに本気で女装するからちょっと手伝ってくれる? アンテ」

「なにが『というわけで』なのかさっぱりわからないし、私の沽券に関わるからその作業は出来るだけ手伝いたくないって以前言わなかったかしら?」

「ケチケチすんなって。男装しようが女装しようがオレはオレだし、お前より美人になるのは無理だよ」

「そういう問題じゃないの……これだから万年発情種族は」


 さて、ウルルジュアと商談をした翌日。

 かくかくしかじかと必要な事をアンテに説明したオレは、自警団のところから当座の金を稼ぐ為の仕事を取ってきたのであった。それなりに稼いでいる自負はあるが、するべき場所に投資したりいざという時の為の資金を確保したりと自由になる金は存外少ない。よって予定外の仕事の支度金はこうしてまた予定外の仕事で稼ぐ必要があるのだ。内容は良くある野盗退治、あまりオレらしい仕事とは言えないけど、目玉商品を出したせいで信頼出来る隊商長がみんな浮き足立ってて仕事にならない。売った相手はあくまでウルルジュアではあるのだけど、こういうのはどうあっても誰かしらが嗅ぎ付けて手を回そうとする。特に今回はオレがじっくり商売相手を選んだ事もあって、クーバンやボルダナも含めて誰もが動いている。

 その辺の始末をちゃんと付けられる相手を選んだんだってことをみんなわかってるはずなんだけどな……ウルルジュアが舐められてるのか、オレが信用されてないのか。その辺はあとで問いただすとして、だ。


「お前それ口癖になってきてないか? 品がないぞ」

『そうだそうだ。まったくこれだから生きてる奴らは……』


 ……。


「おい、いきなり入ってくるなよ。それにお前だって生きてるには生きてるじゃないか」

『ああ。生きてるぞ』

「……だからそういうことじゃないんだって」

「また?」

「ああ」

『そうだぞ』

「……お前さぁ」


 サーシスとの会話に若干疲れを感じるのもいつものこと。諦めて用意してきた化粧品や服など、必要なものを寝台の上に並べる。そこかしこで商人達が動いてるから、今回の犠牲者像にはちょっと凝っても良いかもしれない。そうだな、この街での動きを他所に伝える事で儲けを得ようとしてる非力な女行商人が、酒場で景気付けをしたあと夜中に街を抜け出す……なんてどうだろう? いや、弱いな。そもそも儲けに行くんじゃなくて、金を持って出て行く振りをした方が襲撃も早いだろうし。

 ……うん、やっぱりいつも通りこいつに囮になってもらおう。いやぁ、持っててよかったよ。柄の部分の見た目だけは良いからなこの剣。


「とにかく仕事だからな。お前囮にするぞ」

『おう。まかせとけ』


 打てば響く。

 普段はなにかとうるさいけど、仕事を……特に戦い、切り合いのある仕事ととなると相応に乗り気で、むしろ協力的になる。囮にすると言っても特にどうこう言ったりもしない。やはり喋れても所詮剣と言うか、そういう生き方と言うか、あり方的なものが関係してるんだろうか。それとも単に……例えば強奪されたりオレが殺されたりするような事態になって、持ち手が変わるような事になっても気にしないってことなんだろうか。それはそれで剣らしいとは思うけど、ちょっと寂しく思わない事も無い。喋れるんだしね。

 というかそう無味乾燥で情の無い性格されてると、あんまり持ち続けてる意味がないし……うーん? どうなんだろう。

 ……まあ、こいつを拾ったのもこいつが喋れるのも単に運が良かっただけの出来事な訳だし、それくらい駄目だったとしても、運がいいと思ったけどそんな事なかったんだなぁって言って笑って諦めるか。いや、そもそも必要なのはオレじゃないし、必要な奴はそもそもなにも知らないで期待もしてないわけだろ? 気にするだけ損だな。やめやめ。

 今は仕事のことだけ考えよう。まず鬘だろ、日除布ターバンだと色気が無いし面紗ベールだろ。紅、白粉、眉墨、牛酪バターだろ、胸の詰め物は服に縫い付けて貫環飾りピアスで留めるとして、靴は厚底にしたほうが美人ぽく見えるんだよな……行商人としては不自然極まりないけど。


「あ」

「どうしたの? テルナ」

「香油買ってくるの忘れてた」


 牛酪だけで誤魔化すのは厳しいよな……蜂蜜でも混ぜりゃ別だけど。エルフの美人が使ってたんだよなぁ。あれはいい匂いだった。


「……私が使ってるのならあるけど」

「貸してくれる?」

「いいけど……植物系と動物系どっち?」

「動物系。あっちの方が乱暴な連中には受けがいいんだよ。なんでか」

「じゃあ取ってくる」

「うん。じゃあオレは先に身体をきれいにしとくね」


 えーと、どこまで行ったっけ。ああ、靴を厚底にするかどうかか。

 足元不安定なの怖いしやめとこうかな。むしろ獲物としては狙いやすそうに見えて良さそうな気もするけど……ああ、酒場の景気付けごっこのときは厚底履いて、街を出るとき普通のに履き換えれば良いかな。とりあえずそうするか。ああそうそう、なんだかんだで昨日歩き回ったし足も揉み解して見栄え良いように……あ、毛の処理もしないとな。忙しい忙しい。

目を留めてくださってありがとうございます。

バターって昔化粧品に使われていたそうですね。だからどうしたってこたないんですが。

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