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第12景

目を留めてくださってありがとうございます。

 今は乾期ですもんね。

 そうそう。だから水が売れるの。

 砂漠って言わなかったんですか?

 なんのことかわからなかったみたい。知ったかぶりしてたらしいけど。

 あー。いかにもですね。

 一応それとなく、水は多めに用意したらいいと思うって言ったんだけどね……

 へえ。テルナさんやっさしー。

 あはは。

 で、あいつ何て言ってその気遣いを無駄にしたんですか?

 ええと……俺は旅に必要なものの計算は完璧にできてる。それ以外はなにがあろうと持ち込まない。仲間に余計な苦労をさせるからな。余計な気遣いだ。キリッ……だってさ。

 あいつ、馬鹿なんですか?

 ちなみに帰りの水も足りなかったらしいわ。

 あいつ、本当に馬鹿なんですか?

 まあ、サヴァジーさんの授業に砂漠のことは無かったから……それに八つ当たりとかされなかったし。

 そこだけ評価しときます。しときますけど……あいつ姉さんと義兄さんの結婚式に来てるんですよ? 一族の若頭みたいな顔して。

 え、それは度胸を褒めるところ?

 違います。


「んう……」


 あいつなんであんなでかい隊商任されてるんですかね……

 ん、まああれでちゃんとしてるところはしてるのよ。

 テルナさんが絡まなければ?

 そ。その通り。

 じゃあ今回のもそのしっかりしてるところに期待して?

 まさか。ボルダナとセットで私が仲介に入ることが大前提だったわよ。下手すりゃ村が一個滅ぶもの。

 え、大事ですね?

 あ、ピンと来てないんでしょ。

 まあ……村一個滅ぶって、干害で畑が全滅したりでもしたんですか?

 ううん。そういう分かりやすい話しだったら良かったんだけどね。

 じゃあ、いったい?

 ん……エルフとの戦争になるわ。

 それで、貴女が仲介に……

 うん。


「ううう……」


 じゃぁ私の仕事にもついてくるんですか?

 ううん。そこは信頼してる。秘密を共有する仲間でしょう?

 えへへ、ありがとうございます。がんばります。

 じゃぁ、2つの点は線で結べたわね? 需要と供給と、あと市場のバランスは任せるわ。そういうのは貴女の方が詳しいでしょう?

 そうですね。任せてください。林の間引き、木材の出荷、水の仕入れ。全部完璧に手配してみせます。

 さて、それじゃこの話しはそろそろ終わりにしましょうか。

 ええ、それでは……


「あふ……うぅ……うーん……あ、さぁ?」

「あ、おはようテルナ。邪魔してるよ」

「おはようございますテルナさん、昨日は有意義な時間をありがとうございました」

「……おはようアンテ、ルル。うん。おはよう……おはようは良いんだけど」

「どうかした?」

「なんですか?」

「なんでオレの部屋にいるの?」


 やけにうるさくて寝苦しいと思っていたら、朝から知ってる顔が2つ並んでいた。一瞬宿の食堂かなにかかとも思ったけど、普通にオレが借りてる部屋だ。広くない宿屋の一室に女二人に男一人。ここにいるものの年齢の幅を考えなければ中々危ない状況だと思う。いや、この場から自分を省いて眉目麗しい二人のことだけを考えれば、けして間違いを期待せずにいられる程に歳がいっているわけでもない。十分そういうこともあり得るだろう。

 まぁアンテのほうはともかく、ウルルジュアはアンテの顔以外好みじゃないそうだけど。

 いやでも顔だけ好みだったら酔いに任せてなんかこう……なんかこう……うーん……いや、想像するのは良いや。やめとこう。


「なにか変な想像してるみたいだけど、単にちょっと話しをしてただけだよ。例の村の話し、受け持ってくれるのこの子なんでしょ?」

「いや、想像は今やめたところだけどね」

「してたんじゃないですか。やめてくださいよ気色悪いですからこんな餓鬼と」


 ……おかしいな、ウルルジュアが昨日話してたとき以上のわかりやすい敵意をアンテに向けている。アンテはアンテでなんか笑顔が硬いし。オレが寝てる間に一体どんな話しをしてたんだ?


「私、45年生きてるのだけど?」

「それ、人間の数え方ででしょ。生まれたときから人間に育てられてたってせいぜい22じゃない。私37だもの」

「あら大人げない。私の方が年上だとなにか都合が悪いのかしら?」

「べっつにー? あんたがそうやってとりすました顔してても、私拾われてきたばっかりのあんたがわんわん泣いてた頃の顔覚えてるってだけよ」


 そんなのオレとしてはどっちもどっちなんだけど、言ったら状況が悪化するかな……ううん、むしろ言った方が良いか? どっちかって言うとアンテの方が対応が大人っぽいし、ウルルジュアに水を向ける意味でも。


「ふん。私がわんわんならあなたはびーびー泣いて無かったかしら? そんな昔を持ち出すなんて、よっぽど私に身長を抜かれた今が気に入らないのね……器ちっさ」

「わかってて指摘するあんたってなんなのかしらね。あと聞こえてるわよ」

「聞こえるように言ってるもの」


 あ、こいつのほうが大人とかただの錯覚だった。

 っていうかハーフエルフって『ちっさ』とか使うんだな。『器ちっさ』って……『器ちっさ』って……いやこれ己絞ブーメランか。やめよう。


「あー、あのさ、とりあえず着替えたいから出てってほしいんだけど」

「別に私は気にしないわよ」

「私も」

「オレが気にするんだよ」

「ふーん……まあ良いわ。ほら行くわよ」

「はいはい」


 二人が部屋を出て行くのを見送る。あれ、これって広義だと逃げたうちに入るのかな。情けないけど。まぁ喧嘩に巻き込まれて楽しいわけでも嬉しいわけでもないしなぁ……逃げでもなんでもこの状況を回避出来るならそれで良いか。

 えっと、一応服は来てるんだな。酒くさっ……とっとと脱ごう。あれ、なんか胸に虫に食われたみたいな痕がついてる。


「あ、そうそう」


 おおっと、なぜか計ったように服を脱いだ瞬間にアンテが戻ってきた。まあ今更裸見られようが気にはしないけど。


「なに?」

「……」


 おい、無言で人の裸見てるんじゃねえよ。


「いや、ヒューマンて淫乱だよね」

「なに言ってんのお前?」


 いや、本当にこの状況でなに言ってんだお前。

 とりあえず無言に手を払う仕草でアンテを部屋から追い出す。まだウルルジュアと報酬とかの話しもしなきゃ行けないのに。用件ないなら戻ってくんな。

ブーメラン=自爆 なのですが。この世界では自爆ってあまり言わなさそうだなぁと思いまして。

自滅、自縄自縛、自爆などなど色々候補はあったのですが『己の首を絞める』と言うことで『己絞』と言う造語を使うことにしました。ニュアンス伝わりますかね。

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