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第11景

目を留めてくださってありがとうございます。

「ちょっとそこの人、麦酒をお願い。やっほー! テルナさん」

「やあルル、久しぶり」


 一人の女性が目の前の椅子に足を組んで座り、通りかかった女給に酒を注文する。

 馴染みの酒場で一人寂しく飲むこと数時間、そろそろ河岸を変えるか帰るかというころ。ようやく獲物が釣り針にかかった……うう、ちょっと酒精の回り具合が辛い。とりあえず水を頼むべきか否かで悩みつつ顔を上げると、目の前の彼女は少し眉を寄せた。


「いやぁ、うちの馬鹿な義弟おとうとのお守りお疲れさまです」

「あれ? お義兄にいさんじゃなくて?」

「年齢的には上ですけど、立場的には微妙ですし、あれを目上とは思いたくないです」

「ありゃりゃ」


 輝く褐色の肌に金と黒が入り交じった髪、黒く輝く瞳に女性らしいどころではない肉付きの素晴らしい肢体。ここらでは見ない色合いの風貌からあふれるどこか異郷的な魅力を惜しげも無くさらす彼女は、とある隊商の新米隊商長ウルルジュア。愛称ルル。

 ウルルジュアは……なんていうか、サヴァジーさんの一族の末席と言ったところだろうか。クーバンの異母兄の奥さんの妹だったわけだけど、その夫婦がとある隊商の休憩所——街道の真ん中にある宿屋兼馬屋と思ってもらえば良いだろうか——を経営し始めたので、サヴァジーさんに弟子入りして、そのお義兄さんの隊商を引き継いだのだ。今は確か36くらいだったか。


「あれはあれで良いとこあるんだよ?」

「あんなに仕事出来ないのに?」

「えー……と」


 しょっぱなから強烈な一言を貰った。まぁオレにじゃないけど。相変わらずだな、という言葉はとりあえず飲み込む。彼女の場合はここからだ。


「テルナさんに喧嘩売ろうとして他所の商人に渡りつけたのはいいけど、それが質の悪い商人だったの気付かないで口車に乗って意味ない商品やたらと仕入れたりしたのに?」

「すごい最新情報だな。いやでもほら、昔野犬から庇ってもらったこととかあるし」

「それだってそもそもはあいつがテルナさんを隊商の野営地から連れ出したからでしょ」

「酒の飲み方も教えてくれたし」

「で、酔ったあいつの世話をテルナさんがしてるんだよね」

「ダサいって言葉も教えてくれたな」

「もっぱらテルナさんに向かって使ってるよね」

「……まぁダサいかっこしてるとは思うし」

「でも別にかっこよさの指導とかしてくれないでしょ」

「詳しいな?」

「だいたい義兄さんと姉さんから聞けるもん」


 うん。最初の以外は20回目くらいだしね。ちょうど良くやってきた麦酒の杯を一息で空にした彼女をみやりながら、心中でそんな突っ込みを入れる。

 まぁ一事が万事この調子で、いっそ趣味は多分クーバンに喧嘩を売ることじゃないかと思うくらい奴に辛辣なんだけど……ただ実はオレは彼女が意地っ張りで天の邪鬼な性質なんじゃないかと睨んでる。昔っからよく聞かれるんだよなぁ、あいつの弱点とか、どう思ってるかとか。

 可愛いし、年齢的に考えてもあいつにはもったいないと思うんだけどな。

 まぁ、ボルダナはおっさん臭いし、後の二人は既婚者だし。彼女に釣り合う良い男ってのも中々いないのかもしれない。


「一応聞くけどさ、クーバンのこと嫌いなの?」

「別に、あいつが嫌いなわけじゃなくて……うー」


 うん。やっぱり素直じゃないんだな。これは。

 そういえばもっと小さい頃は、オレとクーバンが話してると後ろに隠れてしがみつかれたり、無理矢理引っ張られて離されたりもしたし。


「まあいいや、女給さん、おみ」

「果実酒1本、杯2つ!」


 ……


「え、ルル?」

「いやぁ、テルナさんと飲みながら商談が出来るなんて、私も出世したもんですよねぇ」

「自分でいう……? っていうか切り替えはやいな」

「傲慢なのも切り替え早いのも才能なんでしょ? テルナさん」

「んんん、まあなぁ……じゃなくて、オレもう結構飲んでるんだけど」


 お水か薬草の煮出し汁でも飲みたいんだけど……でもなぁ、可愛くて貴重な女の子の後輩に一緒に飲みたいって言われるとなぁ……断りづらいンだよなぁ……ここのお酒結構いいし。


「大丈夫ですよ、いざとなったら私の部屋にお連れします」

「こらこら、変な噂がたって仕事できなくなっちゃうでしょ」

「そうですかぁ? じゃあテルナさんの部屋で我慢します。いつもの宿でしょ?」

「それならまぁ……場所わかる?」


 うん、そこまで言ってくれるならしょうがない。

 ちょうど良く女給が運んできた杯それぞれに小さな瓶から柄杓ですくった果実酒を注ぐ。


「なに言ってるんですか。二人がいない時は義兄さんと姉がやってたんですよ? ……まぁ勝手知ったるなんとやらです」

「そっか、そうだっけ」

「今はあのハーフエルフが店番なんですよね」

「アンテね。店番ていうか店主だけど……あいつのこと嫌いなの?」


 そういえば私だけじゃなくてこのも拠点をあの宿にする話しがあったような無かったような。アンテの名前も知ってるはずだし……? 疑問に思いながら酒を注いだ杯を渡すと、受け取った彼女は堂に入った仕草でそれを口元へ運び匂いを楽しむように軽く揺すり……そしてちょっと眉を顰める。


「えー……顔は良いですよね」


 あ、その表情そっち? 顔はともかく頭も悪くないし、体力だってそこそこあるはずだけど。


「でも性格がちょっと苦手で……あと肉が足りないので魅力的にも見えないっていうか」

「肉かぁ」

「ある程度肉がついてれば男でも女でもいけるんですけどねー。まぁ義弟ほど暑苦しくなくて良いですけど」


 まぁクーバンは結構ムキムキだからな。等と思っていると、何やら杯を持ったままのウルルジュアがじっとこちらを見ている。疑問に思って首を傾げると、視線の先が机の上に移った。


「ああ、そうか」


 慌てて杯をとって、彼女に差し出す。彼女はそれを受けて、自分の杯をオレのにあわせた。


「それじゃ商談を始めましょうか。今更だけど」

「ええ。楽しみましょう」

(筋)肉色系女子ウルルジュアさん、彼女は砂漠の入り口付近の出身です。

……しかし相変わらずファンタジー要素ゼロだな。

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