第10景
目を留めてくださってありがとうございます。
『なあ?』
「んー?」
『結局商談らしい商談なんて無かったじゃねーか!』
サヴァジーさんの店を出た瞬間、腰に下げた剣に怒鳴られた。
そういえば宿を出るときは商談の為に出かけるんだって説明したんだったな。まぁ、説明したっていうか、事実として商談のためにここに来たんだけど……
「素人が傍から聞いてわかるような話を真っ昼間の酒場でするかよ」
『お前らの他にいないのに?』
「必要ない場面で無理に使い分けんのは二流だよ。バレないように話して問題ないなら、どこでだって誰とだってバレないように話すさ」
『……えーと、つまり?』
「全然関係ないけど自室以外でお前に話しかけられんのは徹底的に不本意」
『そんな話だったか?』
お前はどうせ脳みその出来が微妙なんだから、それだけわかってりゃ良いんだよ……ってこいつが融通きかないのって、オレの才能が足りないかららしいんだよな……
魔剣サーシス・なんとかかんとかは、本来それ自体が人格を持ったこの世界で唯二の『人格を持つ武器』らしいけど、曰く魔王をぶっ殺すときに故障してしまったせいで使い手の力を借りないと最低限の機能も維持出来ないんだとかなんとか。本来はもっと聡明で、賢く、気高く、そして洒落っ気たっぷりな冗句も自在に操る素晴らしい人格を備えていたのだけど、剣身が半分になってしまった今では持ち主の精神的な成長性に応じて人格が制限されるんだそうだ。
……持ち主の精神的な成長性ねぇ? まぁ契約したの結構良い歳になってからだったしなぁ……とはならないからな? そんなんほいほい信じるわけないっつの。とりあえずオレはこいつに関して『戯言が多いけど、記憶力だけはしっかりした道具』ってことしか信用しないことにしてる。別段、オレに才能が無いことを信じたくない理由があるわけじゃないけど、それ以上の機能を求めてないんだからそれでいいだろう。
こいつには、いざと言うときに憶えておいてもらいたいことがあるだけなんだから。
『おい?』
「おっと、悪い。ちょっと感傷的になってたな……それにな、わかりやすい商談ってのは向こうに流されたんだ。その分をこれから他のところに持ってくのさ」
『感傷的? なんでだ』
「そこに突っ込むな」
っていうかお前普段は後半に反応するじゃねえか。なんで今回に限って先の言葉に反応するんだよ。お前が言葉を拾う基準がわかんねーんだよ……
「ちなみにオレがなんて言ってたか言えるか?」
『おっと、悪い。ちょっと感傷的になってたな……それにな、わかりやすい商談ってのは向こうに流されたんだ。その分をこれから他のところに持ってくのさ』
「だよなぁ」
うん、やっぱり記憶力だけは信頼出来るんだよなぁ。
たとえ、既に会話の流れが断ち切られてて何を喋ってたかを忘れてしまっているのだろうとしても。
「さて、あんまりここに突っ立って喋っててもしょうがないし、次行くか」
当然、というのかどうか。オレが歩き出しても文句を言う気配はない。独り言に対して反応らしい反応もない。もともと口数が多い方でもないしな、こいつ。すっごく忘れた頃に唐突に語りかけてきてびっくりするくらいだ。次にこいつのことを忘れるのは……三日後くらいだろうか。
さーて、どこにこの話持ってこうかなー。ウッシュバーンヘでは現在水が非常に貴重な資源だと言うこと、前回クーバンが樽を持って行ったときにそれが空っぽなのをどれだけ残念がられてたかってこと。当然現在のウッシュバーンへではクーバン率いる隊商が一番信頼が厚いけど、水入りの樽を運んだ隊商が現れたらどうなるかなー? その辺の話、ちゃんと集めてないだろクーバン。うっかり仕入れた樽をさばけるってだけで飛び出しちゃって、それが売れて話が終わったような気になってたもんな。
っていうか『そういえばクーバン、大量の樽を仕入れたって言ってたよな? オレ、材木が足りなくて困ってるって場所知ってるんだけど……』って言ったのに、あいつ新たな材木仕入れたりもせず樽だけ売りに行ったからな。まぁあのときのウッシュバーンへならそれでも相当な儲けが出たけども。
ほんっとダメな奴。野犬に襲われたときとか、いざとなると先輩ぶってんのにね。
しかし思えば懐かしいなぁ。サヴァジーさんのところでの修行の日々。オレの方がクーバンやボルダナより5年くらい遅れて修行を始めたのに結局卒業は同じ日で……難癖つけてきたボルダナを剣で、クーバンを酒で下してから1人揚々と旅立ったのを昨日のことのように思い出せる……それがまさかあんなことになるなんて……オレの青春25年……
『なんだよ? 俺達を拾ったのがそんなに不満か?』
あ、今確かに忘れかけてた……いや、一周回って思い出しそうではあったけど。
「別にお前ら拾ったのが不満とかはねーよ。俺の夢の後押しもしてもらったしな……でもいい加減外で話しかけるなってば」
『そんなに嫌なら応えなきゃいいだろうが』
「応えないとうるさいだろ、お前」
『そんなこたねーよ。多分』
「多分て」
その『多分』は制限されてるなりの冗句だったりするのか?
クーバン14歳 16歳のボルダナが引き取られる
クーバン25歳 27歳のボルダナとともに本格的に修行開始
クーバン30歳 20歳のテルナがサヴァジーに弟子入り
クーバン40歳 ボルダナ42歳・テルナ30歳とともに一人前と認められるも、ボルダナとともにテルナに絡んで返り討ちにあい、さらに5年修行を課せられる。
テルナの修行年数が他より短いのは、ぶっちゃけ隊商を率いるか一人で旅するかの違いが大きく効いたそうです。まぁ要するに後継者を育てるよりはぞんざいに扱われたと言うことですね。その分甘やかされてもいるのですが。




