りんねちゃんとファミレス2
そして、それぞれが食べたいコラボ料理をタブレットで注文し終えると、緋影が立ち上がろうとした。
「さて、じゃあ、ドリンクを注ぎに行くか」
キターーーーとなったりんねちゃんは、いつの間にかテーブルの上から緋影の隣の席へと移動しており、緋影に抱っこを所望していた。
そんなりんねちゃんが視界に入った緋影は、じーっと、無表情でおねだりしてくる人形を見つめた。
「りんねちゃんは……」
期待とワクワクに胸を踊らせるりんねちゃん。
そんな、可愛い可愛い自分の人形を見て、緋影が発した言葉は。
「汚れると嫌だし……置いていくか」
――その無情の一言に、ガーンとショックを受けるりんねちゃんなのである。
ドリンクバーが見たいと必死に視線で訴えるりんねちゃんだが、超絶鈍感な緋影には、その想いが通じるわけもなく。
彼はりんねちゃんを置いて、ドリンクバーに一人で向かってしまった。
無慈悲にもポツンと置いていかれたりんねちゃんなのであった。
しかし、ここでおとなしく待つような、呪いの人形ではない。
せっかくファミレスに来たのに、ドリンクバーを間近で見ずに帰れるはずがない。
そして刹那――いつの間にか席から姿を消していた、りんねちゃん。
ドリンクバーに向かう緋影の背に、いつの間にかぴったりと張りついていたのだった。
その様は、まさにセミのようであった。
後から席を立ち、緋影のあとを追ってドリンクを注ぎに行こうとした陽子の視界に、バッチリと背中に張りついている呪いの人形が映り込む。
(こいつ、やっぱり取り憑かれてるじゃねぇーかッ!!)
恐怖で青ざめ、立ち止まる陽子なのである。
そんな彼女の背を、後ろから押したのは歩だった。
「ようちゃ…ん……なん…で…止まっ…て…いる…の? 早く…行っ…て」
「おいやめろッ! あゆッ!! 押すなってッ!!」
通路で立ち止まる陽子の背中を、両手でぐいぐい押す歩に、必死で抵抗する陽子。
あんな、背中になぜかくっついている呪いの人形の後ろなんて歩きたくない陽子と、状況がまったく理解できていない歩との攻防を、天子は微笑ましく見守っていた。
通路でワチャワチャしている二人に気づき、首を傾げる緋影だったが、とりあえず早くドリンクを注いでしまおうと、ドリンクバーに向かう。
コップを手に取り、注ぎ口にセットしようとしたそのとき、緋影の肩の上から、いつの間にかひょっこりと顔を出し、ドリンクバーを覗き込むりんねちゃんの姿があった。
『おお、これがドリンクバーか』と瞳をキラキラ(普段通り)させて感動するりんねちゃん。
最近観たアニメにも出てきたドリンクバー。その本物を目の当たりにして、気分はまさに聖地巡礼。
本当はドリンクを注いでみたいりんねちゃんだが、自分はドリンクバーを注文していない上に、そもそも呪いの人形なので飲み物を飲むこともできない。
だからこそ、見るだけで我慢する――お利口な呪いの人形、それがりんねちゃんなのであった。
そして、ついに緋影が迷うことなくコーラのボタンを押すとドリンクがコップに注がれ始める。
おおーと興奮するりんねちゃんだったが、すぐに誰かの視線に気がつきハッとなった。
見られていては動くことができないりんねちゃんは視線を向けている相手を確認することができない。
だが、視線を向けている人物のことは察することができる。
(ひ、緋影様が……か、肩にりんねちゃんさんを乗せてます……と、尊すぎます)
尊いポーズで、いつの間にか緋影の隣で大興奮している天子なのであった。
(写真に残したい……す、スマホを……い、いけません!! それはいけません!! 盗撮になってしまいますー!!!)
天子は緋影から視線を逸らすことなく、いつの間にか取り出していて自分のスマホ握りしめ心のなかで葛藤していた。
(そうです……脳内に鮮明に記憶するしかありません!!)
そう結論を出した天子は、じーっと緋影とりんねちゃんを凝視する。
りんねちゃんは見られていると動けないため、これには困る。
何が困るのか――それは、自分が勝手に緋影についてきてしまったことがバレることであった。
これはりんねちゃん的には、潜入ミッションのようなものである。
緋影に気づかれぬようドリンクバーの様子を確認し、素早く席に戻る。
それが今回のミッションの内容だ。
大丈夫だ、問題ない、と冷静さを取り戻すりんねちゃんなのである。
そう、どうせいつかは瞬きをするだろうと高を括る呪いの人形りんねちゃんなのであった。
天子が瞬きをした刹那の瞬間に席まで戻ればミッションコンプリート何も問題ないのである。『さぁ、早く瞬きをしろ』となるりんねちゃん。
しかし、血走った目で、まばたきもせず、ひたすら凝視を続ける天子なのである。
『こいつ、全く瞬きをしない……だと!?』となるりんねちゃん。
りんねちゃんの無表情に焦りが見える。(勿論、人形なので無表情)
しかたないと奥の手を使うことを決めたりんねちゃん。
突如として室内なのに突風が天子を襲う。
これなら目を開けてはいられないだろうとなったりんねちゃんだが、すぐに『なにッ!』となる。
なぜなら、天子の視線が逸れる気配がないからであった。
そう、謎の風に瞳を乾燥させられても、天子は瞬きをしないのである。この瞬間、この場面を網膜に焼き付けるため、一秒でも無駄にできないと考えている天子は、瞬きをすることすら忘れているのであった。
もちろん、店内の店員や数名のお客は謎の突風に混乱していた。
そして、風を起こした本人も焦っていた。このままでは、自分が勝手に緋影に着いてきたことがバレてしまうのも時間の問題だと。
『絶対にお前、目がカピカピになってるだろ』と思うりんねちゃんだが、天子が瞬きする気配はない。
そして、ついに緋影がドリンクを注ぎ終わると、じーっと瞬きひとつせずにこちらを見ている天子に今更ながらに気がついた。
マズイとなるりんねちゃんの表情はまさに絶体絶命の無表情であった。
そして、天子の方に顔を向ける緋影は、いつの間にか肩に乗っかって身を乗り出しドリンクバーの方を『バレたー』と見ているりんねちゃんに気がついた緋影なのであった。
じーっとりんねちゃんの方を見ている緋影に対して、ついに自分が呪いの人形だとバレてしまったと焦るりんねちゃん。
「りんねちゃん……いつの間にか肩に引っかかってしまっていたのか」
そんな緋影の相変わらずの一言に、『あ、やっぱりバレてない』と一安心なりんねちゃん。
しかし、すぐに『ん?』と疑問に思った。あれ、別に呪いの人形とバレても困らないはずでは?と謎の違和感に心がモヤモヤするりんねちゃんなのである。
なぜ、バレることに焦っていたのだろうと疑問に思っているりんねちゃんだったが、すぐにミッションに失敗したからだろうと結論付けた。
そんなりんねちゃんは、いまだに天子の視線を感じているのであった。
「ひか…かたさん……よ、よろしければ写真を撮ってもよろしいでしょうか?」
いつの間にかスマホをこちらに向けてそう申し訳無さそうにお願いしてくる天子に対して、衝撃の無表情を浮かべたりんねちゃん。
『こいつ、私の醜態をカメラに撮る気だ!?』とりんねちゃんの無表情が物語っていた。
無様にも任務に失敗した姿を撮影してやるぜとあくどい笑みを浮かべている天子がりんねちゃんの心のなかでイメージとして浮き上がっていた。
「き、奇跡的な瞬間なので! これは写真に収めたほうが良いのではと思いまして……」
「た、確かに……天ノ川さんが良ければ撮ってくれないか?」
血走った瞳を向けて瞬きひとつせずグイグイとくる天子に気圧され、緋影は流れのままに了承した。
これは早く逃げなければとなるりんねちゃんだが、天子に見られて逃げられない。
「はい! よろこんで!!」
そして、素早く天子によって、彼女のスマホで撮影されたりんねちゃんなのであった。
「……あの……撮った写真を送りますので……れ、連絡先を交換していただけると……」
モジモジと顔を赤らめながら緋影にそう提案する天子に、りんねちゃんは驚きの無表情を浮かべた。
あまりにも自然に、緋影の連絡先を聞き出そうとしている天子に対して、『この女策士だ!!』となるりんねちゃん。
実際は、内心でかなり葛藤し勇気を出しての行動なのだが、そんなことは知る由もない呪いの人形りんねちゃんは、『これは公明の罠だ!!』と緋影に呪いのテレパシーを送り警告する。
しかし、緋影に通じるわけもない。
すぐに自分のスマホを取り出し喜んでという感じの無表情で、顔を真っ赤にして嬉しそうにしている天子とクール(外面は)に連絡先を交換する緋影なのである。
ぐぬぬぬ、となる無表情のりんねちゃんは、後で連絡先も写真も消してやると考えるのであった。
そんなやり取りを見ていた陽子はこいつらやべぇーとなっていた。
そして歩はというと、ドリンクバーにつくなりマイペースにドリンクをミックスしながら、オリジナルドリンクの開発に夢中なのであった。




