りんねちゃんとファミレス
放課後、約束通り緋影たちは、学校の最寄り駅近くにあるファミレスへとやってきた。
そこへ至る道中、緋影の腕に鎮座する呪いの人形に対し、すれ違う人々はホラー映画の恐怖シーンを目の当たりにしたかのような反応を示していた。
その様子に、歩と陽子も思わずタジタジとなる。
一方、周囲の視線などどこ吹く風とばかりに堂々と歩く緋影と、当然のようにその後を追う天子――その二人の鈍感ぶりに、陽子のメンタルポイントは枯渇しかけていた。
そして、そのまま周囲の視線など気にすることもなく、堂々とファミレスへ入店していく緋影。その後を、美少女三人組がぞろぞろと追いかける。
時間帯的に店内は空いており、客は数名ほどしかいなかった。
緋影の腕に鎮座してファミレスへと初めて入店したりんねちゃんは遠目からドリンクバーが見えたことでテンションバク上がり、興奮気味の無表情を浮かべていた。
早く、ドリンクを注ぐところが見たいとワクワク感と期待感がりんねちゃんの表情に現れていた。(勿論無表情)
たまたまフロアにいた女性店員が、「いらっしゃいませ~」と笑顔で迎えようとしたその瞬間、表情が一変。
彼女の目に映ったのは、緋影――ではなく、彼の右前腕に鎮座する呪いの人形りんねちゃんであった。
次の瞬間、店員の顔は恐怖に染まり、無言で回れ右、そのまま裏へと消えていった。
それは、そうなるよなとなる陽子なのだが、緋影と天子はというと全く気にすることもなく、というより気がついていない様子で奥の空いている席へと向かって行った。
そんな二人の後ろを、気まずそうに付いていく歩。その姿に、陽子は大きくため息をついた。
(ウチ、もう帰っていいか?)
そう思いつつも渋々、みんなの後を追って席に着こうとすると――なぜか天子と歩が、席の前でぼーっと立ち尽くしている。首を傾げる陽子。
緋影はすでに着席済み。その隣の空席を、じーっと見つめたまま微動だにしない二人。
その様子を見て、陽子はすべてを察した。
(ああ……ヒトカタの隣に座りたいんだな……まぁ、ウチはヒトカタの隣なんか死んでもイヤだから、どっちでもいいから早く座ってくれ……)
奥側の席へと向かう通路は狭いため、二人に通路を塞がれ奥の空いた席に座れない陽子は、心のなかで、そんなことを考えて待っていると先に動いたのは天子であった。
「わ、わたくしが、ひか…かたさんの隣に座るなど……お、恐れ多くて……で、できません」
恐縮ですとばかりに天子は、緋影の対面の席へと素早く座った。
意図せずに緋影とは対面する形となった天子は顔を赤らめモジモジと落ち着かない様子であった。
これには、りんねちゃんの表情が豹変(無表情)し訴えている『こいつ、悪女だ』と。
自分の株を落とさず素早く緋影の対面の席を確保した悪女(りんねちゃん的に)の天子に対して、りんねちゃんの表情が『……恐ろしい子』と語っていた。
なんと、パロディーすらできるほど呪いの人形りんねちゃんは俗世に染まっていたのである。(勿論、無表情)
緋影のお膝にちょこんと鎮座して、よくわからないポーズ(恐ろしい子ポーズ)をしているりんねちゃんに気がつき、対面で優しく微笑む天子にムカムカマークを額に浮かべまくっていた。
この席は四人席、つまり空いてる席は緋影の隣と天子の隣であった。
(あゆ……よかったじゃねーか。ヒトカタの隣に座れるぞ)
オロオロしている歩を見てそんなことを考えていた陽子だったが、いつまで経っても緋影の隣の席に座らない歩に、思わず疑問の表情を浮かべた。
「………………わ、わた…しも…無理…だ…よ……あ、天ノ川さ…ん…い、一緒に…座ろ…う…よ……ようちゃ…ん…に…任せ…た…よ」
思考回路がショートしたのか、プシューッと顔を真っ赤にして、歩はそう言い残すと天子のあとを追うように、彼女の隣の席を確保した。
どうやら歩は、緋影の隣に座ったときのことを妄想しすぎて思考回路が限界に達してしまい、彼の隣は無理だと判断したらしい。
当然、幼馴染の歩が隣に座るであろうと考えていた緋影。これには、相も変らずの無表情だが、心に大ダメージを負っていた。
(任せたよじゃねーよ!! なんで、ウチがヒトカタの隣に座らないといけねーんだよ!! もう、本当に帰っていいか!!)
残る席は緋影の隣しかなかった。
つまり、陽子が緋影の隣に座らなければならないということである。
しょうがないと、陽子が席に座ろうと決意した瞬間、いつの間にか人一人分の席を我が物顔で占拠している呪いの人形がそこに居た。
そして、陽子の方をじーっと見ていた。
陽子は人としての本能で呪いの人形の言わんとしていることが理解できた。
隣に座ったら呪うと言っているということを――恐怖で青ざめる陽子は自分が取るべき行動を瞬時に理解した。
「む、無理すれば三人は座れるだろッ!! 詰めてくれッ!!! なっ!!!」
天子と歩を無理やり詰めさせ二人席に無理やり座る陽子なのであった。
対面の席に窮屈そうに座る美少女三人組。それを見て、ちょっと、否、かなり内心で落ち込む緋影なのであった。
(そんなにオレの隣に座るのが嫌なのか!?)
そう落ち込む緋影だったのだが、自身の横の席に目をやると、ドヤ顔(無表情)で鎮座するりんねちゃんが目に入った。
そして、なるほどと得心がいった緋影なのである。
(ああ、隣の席にりんねちゃんを置いてたから……誰も隣に座らなかったんだな……きっとそうだろう……たぶん、そうだろうな)
そんなことを考えながら、心を落ち着かせ緋影はタブレット端末を手に取り注文を取るために操作を始めた。
りんねちゃんもいつの間にやらテーブルの上に移動し、これで注文を取るのかと感心している様子であった。
本日注文すべきコラボ料理を探そうとした緋影だったが、タブレットの電源を入れてすぐに見つかった。
なぜなら、トップメニューにコラボ料理が掲載されていたからである。
謎のマスコットのイラストと、もらえる景品の写真を見て、緋影は首をかしげた。
これは、猫なのか? 犬なのか? はたまた熊なのか? そんな謎のゆるキャラだった。
このマスコットが何をモチーフにしているのか、緋影は真剣に悩む。
俗世に染まり始めたばかりのりんねちゃんも、このキャラを知らなかった。呪いの人形の感性では、『変なデザインのキャラ』という認識であった。
「……とりあえず、このコラボ料理のどれかを頼めば良いのか?」
気まずそうにしていた陽子は、不意に緋影から話しかけられてびくりと体を強張らせ、視線をキョロキョロと彷徨わせた。
「そう…だ…よ……ようちゃ…んの…好きな…キャラだ…よ……変だ…よ…ね」
緋影の問いに答えを返したのは歩で、彼女の余計な一言に陽子がショックを受ける。
「へ、変じゃねーだろ! 可愛いだろ!!」
陽子のその発言に対し、緋影は内心「確かに変なマスコットだな」と思いつつも、あえて口には出さなかった。
一方、どうやらこのマスコットを知らない様子の天子が、疑問顔を浮かべているのに気づいた緋影は、そっとタブレットの画面を見せてやる。
「……こ、個性的ですが……か、可愛いのではないでしょうか? なんの生き物なのかは分かりませんが……」
「そうなんだよな……これは何の生き物なんだ……?」
「あ……いや、これはみにかわっていう、ミニで可愛い生き物で……」
ネット上ではそれなりに人気のマスコットキャラなのだが、この場ではどうにも受け入れられていない様子に、陽子は少ししどろもどろになっていた。
(というか、そこの不気味な人形よりは、ぜってぇー可愛いだろッ!!!)
不気味な呪いの人形を可愛いという異様な感性を持つ二人に対して、陽子は納得がいかないとばかりに内心で激しくツッコミを入れる。
そんな陽子に、歩がニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。
「変…な…マスコッ…トだ…よ…ね」
「あゆ……てめぇー、奢ってやらねぇーぞ!!」
「すご…く…愛くる…しくて…可愛…い…マスコッ…ト…だ…よ…ね」
いつもいじられている仕返しとばかりに反撃しようとした歩だったが、陽子に華麗に返り討ちに遭う。
お財布の中身がすっからかんの歩は、ものすごい変わり身の速さを見せるのだった。




