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第4話

よろしくお願いします

空を飛んでわかったことがある。それはこの森がとてつもなく広いってこと。


日本じゃこんな広い森林ってないよね? 結構高い所を飛んでるから、一応森の端が見えるけど、これが異世界クオリティってやつかぁ〜。


考えてみればダンジョン的な場所だったりして。だってゲームだったら〔カルゥ〕って、どう見てもボスっぽいし。しかも終盤の。


あともうひとつ気付いたことが。ヤバい、めちゃくちゃ空気が美味しい!


ド田舎にあるじいちゃんの家でも都会との違いに感動したけど。ここは、次元が違う。


本当に澄みきっていて、何度でも深呼吸ができる。


「スーハー、ヤバい! 深呼吸が楽しいって初めてかも」


気のせいかな? 骨だけだから分かるはずないんだけど〔カルゥ〕が呆れたような目差しを送ってるような気がする。


ま、いっか。今はこの美味しい空気を堪能しよう!


「スゥーハァー、スゥーックッッサッ! ……なにこの匂い」


鼻が枯れるかと思った……。ぷーんと肉が腐ったような匂いがする。それと同じに、何かに導かれるようにある場所に視線が釘付けにされる。


「〔カルゥ〕あそこに向かって飛んで」


近づくにつれ匂いがきつくなっていく。なんとなくあの場所で待ち受ける光景に想像はつくけど、〔カルゥ〕の時と同じで、不思議と怖いとは思えない。


ちょうどいいところに大きめの岩があったので、〔カルゥ〕に超低空低速飛行をしてもらって飛び降りた。


「よし、なんとか環境破壊せずにすんだ。……チョット怖かったけど」


〔カルゥ〕はどこいっかな。あ〜、旋回してこっちに向かって来てるけど、まさか突っ込んでくるのか?


眉間の竜玉が一瞬光ったと思ったら、〔カルゥ〕の骨格が緑色の淡く光る光の粒子となって、散らばっていく。その場に残った竜玉が、ふよふよと私に向かって滑空してきた。私の目の前で停止した竜玉を抱き寄せる。


「いつでも喚べるのか、便利だな……でも、もう少し小さくできないのかな、この竜玉」


自由に召喚できるってことは今後、街とかに入るときに便利なんだけど。ラグビーとかアメフトのボールくらいの竜玉を常に持ち歩かなきゃいけないのは、不便だな〜。


見た目結構キレイだしさぁ、スリとか泥棒なんかには対策ができるだろうけど、貴族とかのやんごとなき人たちに目をつけられたときが厄介だよね。





竜玉を体育館シューズの袋に入れて再び歩く。普通なら鼻がひん曲がってしまうような強烈な腐敗臭も、スキルのおかげかそこまで気ならない。


「ふぅ、はぁ……、ょいしょっと……うわぁ……」


凄まじくグロテスクでホラーな光景。森の中に散乱する人の死体。あるものは頭部と四肢がバラバラに切断され、またあるものは藁人形がごとく大木へと貼り付けられている。そのどれもが損傷が激しく、死に顔からは怒りと狂気が発せられていた。


「……なんて惨い」


地獄だ。十数の人の死体が尋常ならざる殺され方をしている。


怖い。こんなにも惨たらしく殺戮する存在がいること、こんなにも命が軽いこと。そしてなにより、この地獄のなかを取り乱すことなく歩けている私自身が、どうしようもなく恐ろしい。


「……ハッ、これが異世界クオリティってやつ?」


これが死霊術のおかげか、はたまた別の要素かはわからない。下手をすると精神を病んでしまいかねないこの光景、この状況で多少は動揺するものの冷静でいられると言うのは、大変好都合だ。鋼の心。この場においてはありがたいことなんだけど……。


私の心は鋼のように壊れないかわりに、すごく、すごく冷たくなってしまったんじゃないのか。それに私は今から人として最低なことをしてしまう。


「死者への冒涜……ねぇ」


もちろん躊躇いはあるけれど、でもそれ以上に抑えきれない好奇心と少なからずやらねばならぬと言う使命感が勝っているんだよね。


「はぁ、さっさとすませようかな」


難しいことは考えるのはやめよー! ヘソらへんに意識を集中してー。魔力を巡らせてー。そんでそんでー?


どこかなぁ? どこにいるのかな?


「あ、み〜つけた」


数多ある屍の中で他のものとは明らかに違うものがあった。やけに目につくソレは腐敗していて判りづらいけど致命傷がないように見える。


おそらく隊長さんかな? 兵士なのか騎士なのかわからないけど同じデザインの鎧を着てる。でもこの人だけはちょっとだけ豪華、頭についてる房が長いしね。


「さて、貴方の身体、私に頂戴?」


ニチョ。眉間に人差し指を当てると腐った皮膚が僅かにずれた。さすがにチョット気持ち悪い。


「『魂無き骸よ、妾の魔力を偽りの魂としこの頭骨に込め新たな生を与えん。妾の忠実なる僕となれ《死魔従属》』」


こちらも〔カルゥ〕と同じ位の魔力を渡すと、横たわっていた亡骸が直立した。


どろり、と腐肉が滑り落ち。


かたり、と骨が崩れ落ちる。


残ったのは毒々しい紫色をしたドクロだけ。


不気味。夜中にトイレへ行くときなんかにうっかり遭遇しようものなら、絶対に腰抜かす。そしてチビる。そんで気絶する。


ドクロが顎を鳴らす。




カタ、カタカタ、カタカタカタカタ。





辺りに何かが動く気配が漂う。不穏な空気だ、鳥肌が、ぶわぁとたった。


嫌だなぁ、恐いなぁと思いながら、恐る恐る見渡せば兵隊さんたちの腐り落ちた肉と黒ずんだ骨がこちらへ、紫のドクロへと滑るように向かってきた。


ズズズ、ズズズ。


紫のドクロの下にひとつの球体ができた。直径は3メートルないくらい。そんな大きい肉の球体に、ポチャンとドクロが入り込んだ。


だんだんと形を変えケンタウルスのような形に。上半身はムッキムキの人型になり、下半身は足の多い亀のような形をしている。


たくさんの人間を、ギュッと圧縮したような見た目のこの子は、足を折り手を着き頭を垂れている。


「名前、付けなきゃね。……〔ヨミオウ〕だ。よろしくね」


黄泉の王様。カッコよくね? 私ってば名付けの才能を感じる。






今回は〔カルゥ〕ではなく〔ヨミオウ〕の背中に乗る。だって喚べるスペースがないんだもん。


環境がーとか、自然がーとかではなくて、単純に危ない。〔カルゥ〕が気をつけていても木とか倒れてきたら普通に死ねる。


「おー、案外乗り心地は良いな」


変な汁が付かないか心配だったけど、大丈夫みたい。安心した。それに全く臭くない!





森を順調に進む。空を見上げれば、仄かに朱色に染まっていた。


「どうしよ、野宿とか無理だよぉ」


最悪だ。こんな何がいるかわからない所で野宿とか……。雨とか降るかも知れないし。


「あっ、ちょっと〔ヨミオウ〕! あそこ、あの洞穴に行って!!」


良かった〜、これで雨風をしのげるね。

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