【文書 0359】私的記録(押収・分類済み)
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資料番号:PRV-K-001
資料種別:手書きノート(B6判 大学ノート、青)
記録者 :桐島 隆志(カドミウム第三班 副班長)
発見日 :再編4年2月7日
発見場所:第三班 旧居室、ロッカー底部の二重底
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【冒頭ページに記載】
なぜ書くのかわからない。
書いてはいけない種類のことを、書いている。
たぶん、誰かに見せたいわけじゃない。
ただ、忘れる気がしないからだ。
──
再編3年5月19日 夜
昨夜、班長は何かを聞いた。
俺は階段で待たされた。規定違反だ。班長もそれは知っている。
でも班長は俺を行かせなかった。
報告書には、命中3発、その後撤退、と書いた。
書かなかったことのほうが多い。
班長は撤退時、後ろを振り返らなかった。
いつもなら振り返る。掃討の終わりに、敵の位置を最後に確認するのは班長の癖だ。
三年やってきて、一度も外したことがない癖だ。
それを、昨夜は、しなかった。
基地に戻ってから、班長は医務室に行った。
何でもないと言って、医務室に行った。
俺は何かを書くべきだと思った。
軍規に。委員会に。誰かに。
書こうとして、ペンを持って、止めた。
書けば、班長は処分される。
班長は、俺が三年前にここに来たとき、
最初に名前を覚えてくれた人だ。
班長は、俺の家族の話を一度も訊かない。
訊かないことが優しさだと知っている人だ。
書けない。
だから、ここに書く。
ここなら、誰も読まない。
──
通信記録の音声は、たぶん本部で処理される。
たぶん、消える。
俺は、消える前に、自分の頭の中だけで、もう一度聞いておく。
あいつは、こう言った。
「我々はずっと喋っていた。あなたたちが聞こうとしなかっただけで」
俺は、聞こうとしていなかったか?
わからない。
わからない、と書いて、ペンを置いた。
わからないと書けば、もう書けない気がしたからだ。
でも、わからないと書いた以上、もう逆には戻れない。
わかっていることにして、撃ち続けることはできない。
俺は、これを認める。
昨夜、俺は階段で待っていた。
無線越しに、あれの声を聞いていた。
あれは、人だった。
たとえ違う形の人であっても、人だった。
その上で、俺は、班長があれを撃つのを、止めなかった。
止めるべきだったか。
わからない。
書けるのは、ここまでだ。
【整理者注】 本記録は、桐島隆志が再編4年2月以降に消息不明となった後、 第三班旧居室のロッカー底部の二重底から発見された。
二重底はロッカーの構造上、本人以外は発見が極めて困難であり、 桐島が意図的に隠匿していたことが明らかである。
本記録の発見は、彼の消息不明と直接の関係はない。 再編4年5月、第三班旧居室を清掃中の整理員が、偶然発見した。
桐島隆志の本資料群への寄与は、彼自身の意図しない形で、決定的な ものとなった。彼が書き留めなければ、本資料群の中心人物の一人の 内面は、永遠に閉ざされたままだったであろう。




