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【文書 0342】通信記録(音声書き起こし)

通信識別 :CD-V-0517-A

日時   :再編3年5月17日 23:42:08〜23:54:21

通信機材 :軍用個別通信機 第三班専用波(暗号化済み)

書き起こし担当:通信小隊 山岡敦士(三等陸曹)

書き起こし日 :再編3年5月18日

分類   :当初2級 → 再編3年5月20日付で3級に変更


──


23:42:08 桐島 → 志乃 :班長、三階廊下、視認しました。一体。

23:42:11 志乃 → 桐島 :位置確認。私が先行する。お前は階段で待機。

23:42:14 桐島 → 志乃 :班長、規定では二名一組で──

23:42:17 志乃 → 桐島 :待機しろ。

23:42:19 桐島 :(応答なし)


[空白:4分23秒]


23:46:42 志乃 → 桐島 :(小声)……話しかけてきた。

23:46:45 桐島 → 志乃 :班長、繰り返してください。

23:46:48 志乃 :(応答なし)


[通信途絶:1分11秒]


23:47:59 [音声、感染体と推定]:

     「撃たないのか」

23:48:02 志乃 :「……喋るのか」

23:48:04 [感染体]:

     「我々はずっと喋っていた。あなたたちが聞こうとしなかっただけで」

23:48:09 志乃 :「名前は」

23:48:11 [感染体]:

     「転化前の名前なら、中村哲也。

      感染症研究センター、主任研究員だった」


[この時点で、桐島は無線でこのやり取りを聞いている]


23:48:18 志乃 :(応答なし、約7秒)

23:48:25 志乃 :「……転化したのか、自分で」

23:48:28 [感染体/中村]:

     「実験した。五十七名の被験者データを見た後でね。転化した人間の脳は、消えるんじゃない。拡張される。感覚の解像度が上がり、論理処理速度が上がり、身体の各器官が最適化される。我々は死んでいない。進化しているんだ」

23:48:51 志乃 :「感染させて殺した人間に、同じことを言えるか」

23:48:55 [中村]:

     (沈黙、約2秒)

     「言える。死んでいないから」

23:49:02 志乃 :「軍の掃討で死んだ者は」

23:49:05 [中村]:

     (沈黙、約1秒)

     「それは。あなたたちが選んだことだ」

23:49:11 志乃 :「強制的に感染させておいて、よく言う」

23:49:14 [中村]:

     「種の変革に、合意形成は存在しない。ホモ・サピエンスが直立二足歩行に同意したか?言語を獲得することを投票で決めたか?進化は、起きる。我々はその波だ。あなたを殺したいんじゃない。迎えたいんだ」


[通信、雑音あり、約12秒]


23:51:34 [射撃音、3発]

23:51:36 [中村]:

     (声、明瞭)

     「あなたが守ろうとしている"人間"は、何のために存在しているんだ?」

23:51:42 志乃 :(応答なし)

23:51:48 志乃 → 桐島 :撤退する。階段、来い。

23:51:50 桐島 → 志乃 :班長、対象は──

23:51:52 志乃 → 桐島 :来い。


──以上──


【書き起こし担当 注】

本記録の23:47:59以降の感染体の発話部分について、上司より「標準作戦報告書の特記事項には音声内容を転記しないこと」との指示を受領(再編3年5月19日 09:30、口頭指示、文書化なし)。


本書き起こし全文は通信小隊保管とし、第三班には特記事項記載分のみ

通知することとした。


書き起こし担当:山岡 敦士



【整理者注】 山岡敦士は再編3年6月1日付で北部書庫管理係に 配置転換された。配置転換の理由は公式には「定例ローテーション」 とされているが、本人通知から発令まで7日間と異例の短さで あった。

山岡は再編4年4月、配置先で消息不明となり、退役処理されている。 死亡届は提出されていない。本人の所在は現在も不明。

本資料群中、山岡が書き起こした通信記録は計73件確認される。 いずれも、当時の感染体の発話を高い精度で記録している。

彼の書き起こしがなければ、本資料群の意義は半減していたであろう

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