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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
メンタル

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クローザー


 最上さんはプロレスラーと見間違うほどの巨漢投手だ。いつも口をへの字に曲げた仏頂面で、豪快に右腕を投げ下ろしてくる。球種は基本的に、150キロ台の速球とフォークボールの2種類にすぎない。しかし、どちらでも打者の空振りがとれる。パイレーツが連敗中なのでセーブこそついていないが、開幕から4試合に登板して自責点はゼロだ。


 7回裏に代打にでた俺は8回表、そのままマスクをかぶることになった。1アウトをとり、タイガースの強力クリーンアップを迎えたところで、監督はクローザーがマウンドに上げた。おそらく、最上さんに最後まで投げさせるつもりなのだろう。


 だが、最上さんのピッチングは最初からおかしかった。三番打者の古賀さんに対して、ストライクがまったく入らない。一発を警戒すべき場面ではあるが、すっぽぬけが三つ続いた。明らかに打ち気がないので、四球目はど真ん中に要求したが、それすら高目に浮いて四球となった。


 ピッチャーには時々こういうことがある。おそらく、投球フォームが微妙に崩れているか繊細な力加減かのいずれかだろう。それとも、まさか、どこか痛めているのだろうか。


 最上さんほどのキャリアがあれば、投げながらフォームを修正することは可能だ。だが、四番、五番に対しても立ち直りの気配が見られない。ついに12球連続ボールで、無死満塁にしてしまった。


 これでは試合にならない。もし大量失点となれば、試合が決まってしまう。押し出しを恐れて、ストライクをとりにいって痛打をくらうという、最悪のパターンだけは避けねばならない。


 マウンドに内野陣が集まり、投手コーチを交えて、バッターの攻め方の確認をした。前進守備体形をとり、低目の変化球で内野ゴロを打たせる。ホームゲッツーを狙う作戦だ。


 こうした場合、投手コーチが言うべきことは限られている。大半は「思いっきり腕を振れ」「開き直るしかないぞ」などだが、この時の言葉は「ど真ん中に投げろ」だった。ど真ん中に狙っても、球は適当に散って際どいところに決まる。少々甘く入っても、力のある球なので打者の空振りや打ち損じを期待できる。そういう意図を含んだ言葉だ。


 だが、結果は最悪だった。六番打者に甘く入った球を打たれて、走者一掃のツーベース。七番打者にも三遊間を抜かれて、あっという間に四失点である。終盤になって、6点差をつけられてしまった。


「クローザー、何やってやっとんねん!」「てめぇのせいで13連敗決定やないか!」パイレーツファンから痛烈な野次が飛んだ。


 その後も、最上さんの調子は戻らない。八番打者に内野安打を打たれて、投手の東さんには四球を与えてしまった。クローザーの巨体から戦意が抜けるのが見てとれた。


 試合後にわかったことだが、最上さんは故障を隠していた。ブルペンでの投球練習中に、左脇腹に違和感を覚えていたらしい。右投手の全身を弓にボールを矢に例えてみると、左脇腹は矢を打ち出すための弓の要にあたる。その重要な部分をかばっていたために、全身のバランスを崩していたのだ。


 監督はダグアウトから出て、主審に投手交代を告げた。残された投手は高卒ルーキーしかいない。一軍に上がったばかりだというのに、若林は無死満塁の大ピンチでマウンドに上がったのである。


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