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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
メンタル

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44/55

総力戦


 試合は定刻通り、午後6時に始まった。連敗中にもかかわらず、観客の入りは悪くない。数年前に増設した観客席に、ほとんど空席はない。おそらく、3万人は入っているだろう。島民のパイレーツ愛には大感謝である。


 マウンド上の志賀さんは、監督の檄に応えて、初回から全力投球をおこなった。ストレートは意外と走っている。気合のこもった表情で、バッターを打ち取る度に雄叫びを上げる。毎回のようにヒットを打たれ、塁上は賑わすものの、得点だけは許さない。


 タイガースの古賀、三宅、六車(むぐるま)というクリーンアップトリオは、驚異の破壊力を誇る。昨年は三人合わせて、108本塁打、255打点を上げた。志賀さんは、この三人を徹底的にマークしている。ひたすら低目を攻めて、打球を上げさせない。万が一、ホームランを打たれてもソロならOK。そんな開き直った投球が功を奏していた。


 4回表の一死二三塁の場面では、レフトフライを打たれたものの、タッチアップでホームに突入した三塁ランナーを左翼手の鋭い返球が刺した。パイレーツの守備は悪くはないのだ。バックに盛り立てられて、ベテラン志賀さんは奮闘した。


 5回表には下位打線に連打を許し、二死二三塁のピンチまねいたが、幸いなことに打順はピッチャーの東さんである。気が緩んだわけではないだろうが、志賀さんの甘めの初球はきれいに弾き返されてしまった。センター前へのタイムリーヒットである。


 痛恨の失点だった。どうしてもとりたかった先取点をタイガースに与えてしまった。それでも志賀さんは崩れない。敵に二点を与えただけで、後続を断ち、中継ぎ投手にマウンドをゆずる。


 監督はその後も小刻みな投手交代をおこなった。敵の目先を変えることで、追加点を許さない。6回のピンチは二人の中継ぎ投手に一人一殺形式で投げさせたし、7回のピンチには昨日投げたばかりの投手を登板させて、スタンドを驚かせた。


 今日だけは絶対に負けられない。そんな執念を感じさせる投手起用だった。まるで明日なき戦い、トーナメント形式のようなベンチワークである。幸い、投手陣は全員、今シーズン最高のピッチングを見せた。


 それに引き換え、打撃陣は最低だった。抜群の切れとコントロールを見せる、東さんの投球術に手も足も出ない。誰も球が見えていないのか、ミートはおろかカットすることすら難しい。打球が外野まで飛んだのは数えるほどである。


 俺は7回裏に代打に出たのだが、エースのピッチングというやつを見せつけられた。ボールは唸りをあげて、こちらに向かってくる。次はストレートだとわかっているのに、バットは空を切ってしまう。決め球のフォークボールには、まったく目がついていかず、ベースの手前で消えたように見えた。


 今日の東さんには、神がかっていた。事実、パイレーツは一人がエラーで出塁しただけで、一本のヒットも打っていない。パーフェクトはまぬがれたのだが、ノーヒットノーランが継続中である。二点差の接戦にも関わらず、ダグアウトの先輩たちの表情は暗く沈んでいた。


 東さんから得点をあげることが難しいため、わが投手陣は一点も与えることはできない。小刻みな継投を惜しみなくおこなってきたため、まだ投げていないのは二人だけである。一人はクローザーの最上さん、もう一人は高卒ルーキーの若林恭司だった。あまりにも対照的な二人だった。



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