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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
僕たちの生首事件

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41/55

〈夜の校長〉の祟り


 事件は解決を見たのだが、明らかになっていない部分が残されている。そこで、ウルマを質問攻めにして聞きだしたことを書いておこう。僕には事件の全貌を伝えるという、語り部としての責任があるからだ。


 重要なポイントは、〈夜の校長〉事件がメインではなく、サブ的な出来事だったということである。メインとなるのは〈体操着盗難〉事件であり、主犯を務めたのは言うまでもなく、千堂先生だった。


 先生は一学期早々、クラス1の美少女に目をつけた。もちろん、ウルマのことである。しかし、ウルマはクセのある生徒だった。自分のことを「僕」といい、男の子っぽい服装を好む。長年の付き合いだから僕は見慣れているが、先生にとっては許せないことだった。


 端的に言うと、先生の美意識に反したらしい。女の子は女の子らしく。男の子の恰好をすべきではない。それが先生の凝り固まった価値観だった。先生がウルマに、しつこく服装の指導を行った。(大人の言葉でいうと、ジェンダー・ハラスメントになると思う)


 だけど、ウルマはああいう性格だから、まったく聞く耳を持たない。おおっぴらに反抗してみせた。生徒に大人気の先生にしてみたら、手ひどい反発を受けるなんて、初めての経験だったろう。プライドを大いに傷つけられたにちがいない。

 

 その頃、先生はゴミ集積場のクレームを通じて、中堀と出会った。二人は最初こそ対立関係にあったが、しばらくすると手を組むことになる。どす黒いものを抱えた者同士の共感があったのか、それとも互いの利益が一致したのか、このあたりの経緯に関しては警察の取り調べを待たなくてはならない。


 先生と中堀は学校を舞台にした犯罪を試みる。女生徒の体操着を盗み出して、闇ルートで売りさばくという恥知らずな犯罪である。最低だと思うとともに、どうしても理解できない。小学生の体操着を買いたいという大人がいることが、僕には未だに信じられない。


 そのあたりのことをウルマはいつ気づいたのだろう。遅くても先生に罠をかけた時点には気づいていたはずだ。毒キノコを見つけたという嘘を吐いて公園におびきだした際、剣道教室の3人組の見た生首は中堀さんだという推理を披露したが、あれはわざと嘘を吐いたのである。


 目的はもちろん、先生を油断させるためだ。その後、ウルマは僕には内緒で水原刑事と相談し、見事に先生を罠にはめたのである。


 ウルマは〈夜の校長〉の正体は千堂先生である、と確信していたのだ。前にも言ったと思うが、先生はいつも濃紺の上下スウェットを着ている。ウルマの説明を思い出してほしい。暗い色の服装を着ていると、首から下が暗闇にまぎれてしまうのだ。確かに千堂先生だった、という3人組の目撃証言があればいいのだが、それがなくても状況証拠として使えると思う。


 一方、先生はどう思っていたのだろう。わが身可愛さから、すべての罪を中堀さんに押しつけるつもりだったのか? そんなことをしたら、中堀さんは共犯者の存在を明かすにちがいない。そんなこともわからずに、警察から逃げ切れると考えていたのだろうか?


 そもそも、先生がウルマの体操着を盗んだのは、歪んだ欲望からなのか、逆恨みの嫌がらせなのか、よくわからない。というより、考えたくはない。ウルマも同じ思いだろう。警察の取り調べを待つしかないと思う。


 あと、生首写真についてだが、この点に関してはウルマの説明に嘘はない。あの写真を偽造して校庭にばらまいたのは、6年生の五十嵐君である。アパートの敷地内に入り込んで中堀さんから怒鳴られたことを根に持っていたのか、校内で騒ぎを起こして楽しもうとしたのか、それともその両方だったのか。


 中堀さんへの嫌がらせの意味合いもあったことだろう。ただ、悪いことはできないものだ。五十嵐君は高熱を出して寝込んでしまったらしい。これは偶然とは思えない。


「ウルマ、やっぱり〈夜の校長〉の祟りやったんかな?」

「はっ、祟りやって? シロ、なんで祟りになるんや?」

「だって、生首写真の偽造なんて、〈夜の校長〉をバカにしてるやないか」

「ああ、そういうことか。シロは相変わらず非科学的やな。もし本気で言うてるなら、常識を疑うで」

 あいかわらずウルマは辛らつだ。


「でも、〈夜の校長〉は今でも校内で目撃されてる。ウルマは前に、中国に似たような妖怪がいるって言うてたな。調べてみたら、日本にも〈抜け首〉っていう妖怪がいるらしい。これって、本物がいるって証拠やないのか?」

「それはどうやろう。僕は賛同しかねる」


「何で? 僕は少なくとも、五十嵐君の高熱は〈夜の校長〉の祟りやと思う」

「シロにしては、珍しく粘るんやな。五十嵐はくだらん悪戯で、大勢の下級生を泣かせて、集団パニックまで引き起こしたんやで。バレたらどうしようという不安によって、身体のバランスを崩すことは容易に想像がつく」


「ウルマ、それや。そういったことも広い意味で、祟りに含まれるんとちゃうんか」

 僕が指摘すると、ウルマは珍しく黙り込んだ。

「……なるほどな。それはそうかもしれん」

 どうやら、ウルマに一矢報(いっしむく)いることはできたようだ。


〈夜の校長〉は祟りとは裏腹に、寛容な一面もあったのかもしれない。五十嵐君の高熱は下がり、数日後には学校にやってきたからだ。千堂先生の逮捕によって、僕たちの担任は変わったけれど、以前と同じような穏やかな日常が戻ってきた。


 ただ、〈夜の校長〉の噂は相変わらず、まことしやかに校内で囁かれている。



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