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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
僕たちの生首事件

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エレメンツ・リンク②


 ウルマはまとめに入った。

「バラバラの構成要素(エレメンツ)を正確に結びつけることができれば、奇妙に見える出来事も理路整然と説明がつくはずです。犯行動機と状況証拠はすべてそろっています。どのようにして、彼に責任をとらせるか、あとは先生にお任せしますよ」


「話はそれで終わりか?」千堂先生が口を開いた。「ウルマが推理好きなのはよくわかった。でも、おまえは確か、こう言ったぞ。『騒動の鎮静化のために一役買いたい』。おまえは騙し討ちのような手段をとって、犯人とおぼしき生徒を示しただけだ。ただ、それだけのことで、この騒ぎが収まると思うのか?」


「おっと、うっかりしていました」ウルマは肩をすくめると、「〈夜の校長〉事件には、もう一人、重大な犯罪者が関わっています。夜の学校に忍び込んでいるので、彼は不法侵入の被疑者ということになりますね」

「おい、いいかげんなことを言うんじゃないぞ」と、先生。


「目撃証言がありますから、いいかげんじゃありません。複数の証言者は口をそろえて、こう言いました。不法侵入をおかした人物の正体は……」ウルマはたっぷり間をとってから、「中堀さんだ、と」


 千堂先生と僕は、驚きのあまり絶句した。

「個人的に調べてみましたが、中堀さんは興味深い人物でした。アパートの住人や近所の方々によれば、酒癖がひどく悪いそうです」ウルマは説明を続ける。「酔って飲み屋の窓ガラスを割るわ、他の客に暴力をふるうわ、もめ事は日常茶飯事だったとか。中堀さんが独り暮らしをしているのも、酒がらみのトラブルが相次ぎ、家族から愛想をつかされたからだそうです」


「そんなことまで、よく調べたもんだな」と、僕は口をはさむ。

「警察にあたれば、きっと傷害や器物破損の前科が出てくるでしょうね。不法侵入の件があるわけだから、窃盗の疑いも大いにありそうですね」

 窃盗ということは、つまり泥棒である。


「中堀さんの不法侵入を見たと言っているのは、誰と誰なんだ?」と、千堂先生が訊いた。「さっき複数の目撃者と言ったが、それは生徒たちという意味だな」


 ウルマは笑顔で頷いて、

「ええ、面白いのは、彼らは当初、それを〈夜の校長〉だと誤解した点です。わずか数秒とはいえ、その生首は動いていた。3人が同時に目撃していますし、そろいもそろって同じ見間違いをしたとは考えづらい。彼らにはそれが、夜の校内を漂う生首に見えた。実際には、真っ暗な校内をうろつく中堀さんだったのに、なぜ彼らはそう思ったのでしょう?」


「ウルマ、それは中堀さんが何らかのトリックを使ったということか?」と、千堂先生が訊いた。


「いえ、トリックではなく、偶然そうなったのだと思います。学校への不法侵入ですから、彼は人目につかないよう、暗い色の服を着ていたはずです。一言でいえば、闇夜のカラス。生首が移動しているように見えたのは、真っ暗な校内では暗い色は闇にまぎれてしまうから。数秒だけ目撃されたのは、懐中電灯の明かりが誤って顔にあたったからでしょう。首から下が見えないせいで、生首が宙に浮かんでいるように見えた。ただ、それだけの偶然の産物です」


「……なるほどな」と、先生。

「そういうことか」と、僕も納得する。


「では次に、中堀さんは何のために、校内に忍び込んだのか? 端的に言うと、生徒の体操着を盗むためです。たびたび起こっていた体操着盗難事件。あれは、中堀さんの仕業だったんです」 

「中堀さんはクレーマーの上に、変態やったんか」溜め息混じりに僕は呟いた。変態に、さん付けはおかしな話だけど。「そういえば、ウルマも体操着を盗まれたんやったな」


「おい、誤解するなよ。僕は個人的な恨みで、事件に取り組んでいたわけやない。関心を持ったのは、複数の奇妙な出来事をすべて分析して、この事件の全貌を明らかにしたかったからや」と、怒ったように吐き捨てた。

「ああ、わかってる。そんなに怖い顔すんな」と、僕。


 千堂先生は腕組みをして聞いていたが、

「中堀さんが無断で校舎に入り込んで、本当に体操着を盗んでいたなら、それは確かに犯罪だ。だが、ウルマ、それを事実だと示す証拠はあるのか?」


 ウルマは首を横にふって、

「残念ながら、今は状況証拠のみですね。目撃者も小学生ですから、証言として認められるかどうか微妙なところでしょう。でも、警察が捜査すれば、必ず何かが出てくるはずです。中堀の仕業であることは間違いないですよ」


「話はわかった。あとは先生に任せてほしい。くれぐれも勝手に動くんじゃないぞ。この件は3人だけの秘密だ。他の人間には絶対に黙っているんだぞ」

「先生、これからどうするつもりですか?」と、ウルマが訊いた。


「体操着の盗難に関しては、すでに警察と相談しているんだ。校長先生と相談して、今後の学校の対応を検討する」

 千堂先生は腕時計を見ながら、ベンチからゆっくりと立ち上がった。約束の10分はとっくに過ぎていたが、その件について先生は何も言わなかった。



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