エレメンツ・リンク➀
僕はウルマの考えがわからない。以前からそうだったけど、最近は何を考えているのか、まったく想像もつかない。本音を言ってしまうと、この状況は今後もずっと続きそうな気がしているのだ。
さて、ウルマから命じられた難題についてだ。僕は何とかして、千堂先生を児童公園に連れていかねばならない。言葉巧みにおびきだせというニュアンスだったのだが、どのようにすればいいのか、僕の頭では何も思いつかない。
6時間目が終わると、僕は千堂先生に向かって、
「先生、ちょっといいですか? 相談したいことがあって」と、話しかけた。
「何だ、城山。勉強の相談なんて珍しいな」
「いえ、勉強やないんですが」僕は咳払いをしてから、「児童公園で珍しいキノコを見つけたんですよ。赤と黒の入り混じった変な色なので、ひょっとしたら毒キノコかもしれません」
「おいおい、それは何の冗談だ?」
「いえいえ、冗談ではないです」というより、これは嘘である。
ウルマに先生をおびきだす方法がわからないと伝えたら、そう言うように命じられたのだ。普通なら笑われるか相手にされないところだが、先生に信じてもらえたのは、僕が信用されているからだろう。
僕が千堂先生と一緒に児童公園に入っていくと、ベンチにいたウルマが立ち上がった。いかにも待ちくたびれたというポーズをとってから、
「先生、ご足労いただきまして」と、優雅に一礼した。
千堂先生はそれだけで状況を察したらしい。苦笑を浮かべると僕の背中を軽くたたく。
「まったく、おまえたちときたら」
「ごめんなさい」と、僕は素直に頭を下げる。
「どうせ、ウルマの仕業なんだろ。用件は〈夜の校長〉事件だな」
「ご名答。全校生徒の重大な関心事、と言い換えてもいいですね」ウルマはいつも通りに、もったいぶった言い方。「由々しき事態です。この厄介な騒動の鎮静化のために、僕は一役買いたいと思うのですけど、いかがでしょうか? 僕の話を聞いてもらえませんか?」
「騒動の鎮静化だって? おまえに、そんなことができるのか?」
ウルマは自信たっぷりに頷いた。千堂先生は腕時計を見てから、ベンチに腰を下ろす。
「わかった。10分だけ付き合ってやる」
「ありがとうございます」
ウルマに促されて、僕は先生の隣に座った。
「さて、どこから始めましょうか」ウルマは立ったまま話し始めた。「騒動のきっかけになった、生首写真の件がいいですね。あれが校庭で見つかったのは金曜日の朝でした。写真がばらまかれたのは、前日の深夜か当日の早朝でしょう。もう一度、先生にお訊ねしますが、騒動を巻き起こした犯人を特定するために、防犯ビデオを見せてもらえませんか?」
「前にも同じことを言ったが、部外者には見せられない」
「なるほど。でも、本当は違いますよね。防犯ビデオは見せたくても見せられない。なぜなら、何も映っていないから。というより、まったく機能していないから。校庭や校内に設置された防犯カメラはダミーにすぎません。見せかけだけの役立たずなんです」
「ウルマ、どうして、そんなことがわかるんや?」と、僕は訊いた。
「もし、防犯ビデオに犯人が映っていたら、その生徒が呼び出されて怒られるはずやから。でも、そういった情報は網にはかかってない。皆無だったということは、カメラは役立たずという証拠やないか」
「今、犯人のことを生徒って言うたな」と、僕。「それは確かなんか?」
「全校生徒を騒がせて面白がるなんて、いかにも子供っぽいやないか。〈夜の校長〉に反応するのは子供だけだし、それを知っているのも子供だけ。校庭にばらまくというシンプルな方法も、子供犯行説を裏付けている。大人なら、そんな方法はとらないよ」
千堂先生は黙って聞いている。
「ただ、低学年では難しいやろ」と、ウルマは言った。「事件の計画性を考えると、おそらく高学年だろうね。全校生徒の半分が容疑者というわけだ。僕とシロも含めてね」
僕に笑いかけてから、ウルマは先生に向き直る。
「ところで、なぜ、中堀さんの写真が使われたのでしょう。〈夜の校長〉になぞらえていることからもわかるように、理由は悪意以外の何物でもありません。犯人は中堀さんへの恨みを込めて、生首写真を使ったのです」
うん、その点は僕も納得できる。
「そうすると、犯人像がくっきりと浮かび上がってきます。ほら、中堀さんのクレームは有名ですよね。そこから何か思いつきませんか?」
「何だ、ゴミの社会見学の件で、学校に逆恨みをしたというのか?」
「いえいえ、話を聞いていましたか? 被疑者は生徒なんですよ。しかも、中堀さんを恨んでいて、嫌がらせをしたいと考えている」
千堂先生と僕は顔を見合わせた。無言のうちに、
「誰のことだ?」「わかりません」という、やりとりがなされた。
ウルマは物分かりの悪い生徒に語り掛けるように、
「ほら、アパートの敷地内に何度も侵入して、中堀さんを怒らせた生徒がいましたよね」
「ああっ、あの6年生」僕は思わず叫んでしまう。「五十嵐君のことか」
「うん、間違いない」ウルマは頷く。「実は昨日、五十嵐君に鎌をかけたんや。『何か落としたよ』と声をかけて、生首写真を差し出してみた。その時の慌てふためいた顔を見せたかったな。目を白黒させる表情なんて、生まれて初めて見たで」




