生首の正体②
給食を食べ終えての昼休み、僕たちは窓際の席で日光浴をしていた。
「ウルマ、教えてくれへんか。なんで、そんなに防犯ビデオを見たがるんや?」
「先生が言うように、興味本位で見てみたいんやない」ウルマは答える。「もちろん、〈夜の校長〉事件の謎をとくためや。決まっとるやないか。いいかシロ、僕は生首写真と生首の持ち主の関連性を考えてとる」
「生首の持ち主? 関連性?」一体なにを言いだすのか。
「シロ、あの生首は誰なのか、君にわかるか?」
「ええっ、ウルマは誰なのか、知ってるのか?」
「質問に質問で返すな」と、笑顔で頷いた。「おいおい、あの生首に見覚えがないのか?」
「教えてくれ。誰なんや、やっぱり死神か?」
「はあっ、死神やて? バカなことを言うな」
「……じゃ、教えてくれ。あれは誰なんや?」
「シロもよく知っている。あれは中堀さんや」
「中堀さんってクレーマーの? そんな、嘘やろ?」
写真の生首はとても小さかったし、怖かったから熱心に見てはいない。覚えているのは白目をむいていたことぐらいだ。それにしても、中堀さんだって? にわかには信じられないけど、生首写真を手元においてじっくり観察きたウルマが言うのだから、きっとその通りなのだろう。
でも、そんなことがありうるのか?
「ウルマ、中堀さんはいつ死んだんや?」
「何いうとんねん。アパートの前で出くわしたばかりやないか。生首の正体が中堀さんやからって、彼が死んだわけやない。僕はこう考えとるんや。何者かが中堀さんを盗み撮りして、その写真を加工して生首写真を偽造した」
「ああ、そういうことか。なるほど、ようやく理解できた」
「それはよかった。シロはマジ頭の回転がにぶすぎるよな」
「でも誰一人、あの生首が中堀さんやなんて思わんかった」
「生首のインパクトが強すぎたせいやろう。僕のように心を落ち着かせて、じっくりと虫眼鏡で観察せんとわかるものじゃない」
この口振りだと、まさかとは思うけど、ウルマは真相に辿り着いているのか?
「教えてくれ、ウルマ。犯人は一体、誰なんや?」
「犯人やて? シロ、妙なことを言うんやな。はっきり言うて、〈夜の校長〉事件に犯人はおらん。いくつかの出来事が〈夜の校長〉を中心に複雑にからみあっていて、奇妙な具合に見えとるだけや」
「……そうなんか?」
「いや、厳密に言うと、生首写真を加工した人物は存在するな。そやけど、その人物が〈夜の校長〉事件を引き起こしたわけやない」
「ようわからんなぁ。どういうことなんや?」
「事件の構成要素が混在している、ということや。多くの生徒が目撃した生首、校庭にばらまかれた生首写真、その写真を加工した人物、その作成動機。これらすべてが、かろうじてつながっているだけや。〈夜の校長〉というファンタジーによってな」
「……ようわからん。複雑な事件なんやな」
「いや、複雑やない。めちゃくちゃ単純や」
そのとき、僕は遅ればせながら閃いた。
「わかった。ついさっき、偽造写真の生首は中堀さんだと言うたな」
「ああ、言うたな」
「とすると、生首写真を加工したのは中堀さんやない、何でかいうと自分でそんなことをするはずやないから、ということか?」
ウルマは笑いながら、
「シロのくせに、ようわかったな。なかなかいい。その調子で推理してみぃや」
明らかにバカにされている。それでも僕は精一杯、頭を使って考えてみる。
「……あと、剣道教室の連中に目撃された生首やけど、あれはどうなるんや? 生首写真の件と同じで中堀さんやない、ということやな。ということは……。うーん、おいウルマ、やっぱり複雑じゃないか」
「複雑に見えるもんが、本当に複雑やとは限らん。そう見えるんは、シロの思い込みのせいや。一つ一つは単純な出来事にすぎん。ほら、コロンブスの卵やな。僕の説明を聞けば、シロだって『なんや、そういうことか』と思うはずや」
前にも同じセリフを言われた気がする。僕にはさっぱり見当がつかない。
「とりあえず、この事件のキーマンを追及してみようやないか。ただ、彼をおびきだすんは僕には難しい。そこでシロ、君の出番や」
「誰やねん、そのキーマンって」
たっぷり間をとってから、ウルマは笑顔で言った。
「千堂先生や」




