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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
僕たちの生首事件

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目撃者たち②


 放課後、帰り道にある児童公園のベンチに腰を下ろすと、ウルマは言った。

「他にも目撃談はあるけど、具体性があって参考になりそうなのは、この3件ぐらいやな。ただし、どれもこれも、ただの見間違いやと思う。人間ってやつは、簡単に錯覚をしてしまうんや。この3件かて、すべて科学的に説明がつく」


 ウルマの言葉がいつも説明不足である。

「それって、どういうこっちゃ?」と、僕は訊ねた。

「少し考えれば、誰にでもわかることさや。頭を使って考えてみたらええ」

「ウルマ、もったいぶらずに教えてくれよ。その科学的な説明とやらをさ」


 だけど、ウルマは笑顔で首を横に振る。

「そうしたいのはヤマヤマやけど、ここは心を鬼にするで。シロ、自分の頭で考えるんや。いつも僕に頼ってばかりやと、君の頭は退化してまう。シロだって、おバカな大人にはなりたくないやろ?」

「どうしてもトリックを教えへんのか?」


 僕が睨みつけると、ウルマはクスリと笑った。

「トリックなんて複雑なものやない。ありふれた見間違いに錯覚。僕の説明を聞けば、シロだって『何やそれ』て言うやろな」


「そういうの、何て言うんやったっけ? モンブランの卵?」

「コロンブスの卵だ」

「なぁ、ウルマ、もったいぶらんと、さっさと教えてくれや」

「親しき中にも礼儀あり。人にものを頼む態度やあらへんな」


 ウルマは腕組みをして、僕の言葉を待っている。

「……ウルマ様、お願いします。鞭で哀れなシロに知恵を授けてください」

「ま、ええやろ。とりあえず、半分だけや。わかりやすいのは、桜の木の上と、体育館の窓の方やな。たぶん、サッカーボールかバレーボールやと思う。空気が抜けてへこんだボールを、生首だと見誤っただけや」


「確かに大きさは似てるかもしれへんけど、サッカーボールやバレーボールを生首と見間違えたりするかな?」

「シミュラクラ現象が起こったんや」


「シ、シミュ……?」

「シミュラクラ現象。人間は三つの点があっただけで、それを両目と口と見誤って、人の顔と認識してしまうんや。僕たちの脳髄は無意識に、そう判断してしまう。ほら、天井の木目模様を見てると、人の顔が浮かんでくるやろ。あれと同じ原理やな」


「ああ、確かに、そういうことがあるな」

「おそらく、桜の木の上にあったのはサッカーボールで、体育館の窓枠に引っかかっていたのはバレーボールやろう。それぞれのマークか汚れが、目と口に見えたんやろ。真っ昼間やったら見間違えへんけど、〈夜の校長〉が目撃されたのは、どれも陽が暮れてからや。一日の中で最も見間違いが多い時間帯やからな」


 なるほど、ウルマの話には説得力がある。

「目の錯覚やったという話はわかった。けど、生首写真の〈夜の校長〉はどうなるんや? あれは錯覚じゃないやろ?」

「ああ、錯覚というより、たぶん偽造だろうね」


「偽造? 偽物の写真ってこと?」

「ああ、パソコンさえあれば、あんな偽造写真なんか簡単につくれるで。基本的なスキルされあれば、小学生にだって可能や」

「僕には無理だけど、ウルマならできるってことか」

「もっとリアルで怖ろしい写真になるけどな。試しに作ってみよか?」


 そんなものは見たくないので、僕は丁重に断った。ウルマは鼻で笑ってから、

「話は戻るんやけど、目撃談で気になるのは、6年の男子3人が見た〈夜の校長〉やな。ふわふわと動いていたという点が興味深い。3人が同時に見ているし、3年女子、4年女子の目撃談とは明らかに違うしな」

「そうなんか? ということは、本物だったりする?」

「どうやろうな。それについては、もう少し調べてからにしよ」


 いつのまにか日が暮れており、あたりは真っ暗になっている。僕たちの打ち合わせはお開きになり、続きは次回にもちこされた。


 この時点の僕は、何もわかっていなかった。ウルマが何を考えているのか、〈夜の校長〉事件が何なのか、何一つわかっていなかった。まさか、思いがけない人物が関わっているなんて想像もしていなかったのだ。


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