千堂先生
僕たちのクラスの担任は、千堂という男の先生だ。東京生まれの東京育ち。母方の祖父母を頼って、昨年淡路島にやってきた。背が高くて、いつも優しい25歳。スポーツ万能でカッコよく、濃紺の上下スウェットがトレードマーク。
生徒の間では人気が高く、特に女子にはもてもて。標準語を使っているが、気取ったところはない。下手な関西弁を使うより、よほど好感がもてるというものだ。一番の魅力は爽やかな笑顔だろう。もっとも、ホームルームの今、千堂先生は笑顔を封印していた。
「一体何があったのか、わかる者は説明してくれ」
誰ひとり答えない。千堂先生はクラス全員を見渡している。運が悪いことに、僕は目が合ってしまった。
「城山はどうだ? 何か知らないか?」
「いえ、何も知りません。僕が学校にきたのは、校庭に写真がバラまかれた後やったので」と、正直に答えた。
「誰かの悪戯やないんですか?」ウルマがよく通る声で発言した。「生徒の可能性は低いと思います。外部の人間の仕業やないでしょうか」
千堂先生はジロリとウルマを睨みつけ、
「ウルマ、何の根拠があって、そんなことを言うんだ?」
ウルマは平然と肩をすくめて、
「根拠などありません。ただ、他人を驚かせて喜ぶような人間は校外にいくらでもいる、ということです」
なぜか、ウルマは頻繁に、千堂先生に反抗的な態度をとる。よほど相性がよくないのだろう。不思議に思って理由を訊ねたことがあるけれど、「さぁね、前世で何かあったのかな」と言って、はぐらかされてしまった。
「そもそも、もし生徒の仕業だったら、先生方には都合が悪いんやないですか?」といった具合に、ウルマは一言おおい。
「そんなことはない。生徒の仕業だったなら、しっかり話し合うだけだ」と、千堂先生は大人の対応だ。
ウルマは再び肩をすくめて、
「まぁ、どちらにしても、くだらない悪戯やな」
千堂先生は苦笑しながら、
「ただ、その悪戯のおかげで、1年生と2年生を合わせて8人も気分が悪くなったらしい」
確かに、泣きじゃくっていた女の子は大勢いた。彼女たちは保健室で気持ちを落ち着かせてから、早退をすることになったらしい。迎えに来た家族もいたという話である。
「もし、何か思い出したり妙なことに気づいたりしたら、遠慮なく先生に言ってくれ。あと、校庭に落ちていた写真は先生が回収する。もっている者は一枚のこらず提出してくれ」
僕たちは素直に写真を提出する。気味が悪いので持っていたくない、という心理も働いたのだろう。教壇の上には、たちまち写真の山ができた。
だけど、ウルマは座ったままだ。腕組みをして、素知らぬ顔をしている。僕は覚えているのだが、ウルマは確実に写真を拾っている。少なくても3枚はもっているはずだが、どうやらネコババをするつもりらしい。




