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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
僕たちの生首事件

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〈夜の校長〉の噂


 淡路島には約40校の小学校があるけれど、こんな怪談があるのは僕らの小学校だけかもしれない。二宮金次郎像の目が赤く光るとか、古い人体模型が動き出すとか、ありふれた学校七不思議ではない。歩きスマホを連想させるので二宮金次郎像はないし、人体模型は理科室にも保健室にもなかった。


 その怪談は、〈夜の校長〉と言われている。夜になると、男性の生首が校内に浮かんでいたり徘徊したりしているという。うっかり見てしまうと、高熱を出して死んでしまうのだ。インフルエンザで40度の熱がでたときは死ぬほど辛かった。


「あんな苦しさは二度と御免や。僕は絶対に〈夜の校長〉なんか見たない」と、僕はウルマに言った。「でも何で、〈夜の校長〉なんやろ。校長先生の首やないのに」

「おいおい、シロ、それってマジで言うてんの?」


 ウルマは大袈裟に肩をすくめて、大きな瞳をクルリと回してみせた。僕たちは幼稚園で出会ってから小学5年の今日(こんにち)まで、ほとんどの時間を一緒に過ごしてきた。ウルマは都会風のルックスとファッションで、田舎者まるだしの僕とはあまりにも対照的だけど。いわゆる〈腐れ縁〉というやつだ。


「校長というのは、たぶん責任者って意味合いやろ」と、ウルマは言う。「語呂がいいから、そう呼ばれただけや」

「責任者? 昔は校長先生の生首やったとか、そういう可能性はないか?」

「ないやろな。ほら、〈夜の市長〉って似たような呼び名があるやないか」

「何や、それ」


 ウルマによると、〈夜の市長〉というのは本来の市長とは別に、夜の行政を推進する責任者のことらしい。例えば、歓楽街の深夜営業を盛り上げるとか、夜間営業店と交通機関の橋渡しを行うとか、そういうことを仕事にしているらしい。小学生の僕には全然イメージできないけど。


「〈夜の市長〉いうんはオランダのアムステルダムで誕生したんや。一時期、新しい取り組みとして話題になってけど、最近はあまり聞かへんな。ちなみに、正式名称は〈ナイト・メイヤー〉」

「ウルマは本当に何でも知っとんな」


 ウルマの成績はすべて学年トップだ。クールなルックスが相まって、校内でも人気が高い。下級生のファンクラブがあるほどだし、先生からも一目おかれている。

 それにひきかえ、僕はごく普通の生徒だ。成績と運動神経、背の高さなど、すべてが中の中。これといった取り柄や特技もなく、いたって平均的な男子である。


 ウルマは僕の肩を叩きながら、

「毎日ニュースを見て新聞を読んでたら、世界情勢は嫌でも目に入ってくるで。社会の落伍者にはなりたくなかったら、アニメや漫画以外にも興味をもつべきやな」

「ああ、ニュースを見て新聞を読むようにする。それより、〈夜の校長〉についてウルマの考えを教えてよ」


「『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』に、よく似た妖怪がのっていたな。〈飛頭蛮ひとうばん〉という中国の妖怪や。夜になると頭が胴体から離れて、あちこち飛び回るやってさ。ひょっとすると、〈夜の校長〉はこいつの眷属かもな」

「ほらみろ。やっぱり、〈夜の校長〉は実在するんやないか」


「シロ、本気で言うてんの? 妖怪がいるわけないやんか。『ゲゲゲの鬼太郎』とかのアニメと現実を混同したらあかんで」

 えっ、実在しないの、と思ったけど、僕は笑ってごまかすことにした。

「混同なんかしてへんよ」


「〈夜の校長〉が実在するかどうかはともかく、このネーミングは〈校長〉の権威が今より高かった頃の名残やろな。〈責任者〉というより、〈支配者〉に近いんかもしれへん」

「夜の小学校の支配者か。何かようわからんけど、見たら死ぬなんて妖怪というより、まるで死神やな」


 だけど、僕たちは知らなかった。まさか、それからしばらくして、〈夜の校長〉がらみの大事件が起こるなんて、想像もしていなかったのだ。



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