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角界には閉鎖的で保守的なイメージがあるが、海外力士が横綱をはるようになって久しい。もしかしたら、エルフに対しても門戸を開いているのかもしれない。仮に夢良関がエルフであったとしても、角界から追放するようなことはなさそうである。
夢良関はもともと、好感度の塊のような力士だ。スキャンダルとは無縁だし、彼を悪く言う者は皆無である。もし、エルフ説を大々的にアピールしたならば、こちらがバッシングを受けることは必至である。少なくとも、夢良関のファンを敵に回す覚悟は必要だろう。正直言って、今の僕には、そこまでのリスクを負うつもりはない。
ふと、もう一つの可能性に思い当たった。「エルフの魔法」という可能性である。我々は知らないうちに、夢良関の魔法にかかっているのかもしれない。エルフの相撲取りを認めてほしい、ぜひ応援してほしい、という魔法である。
それが真実であったとしても、夢良関を非難するつもりはさらさらない。こうして調べているうちに、ますます夢良関のことが好きになってしまったほどだ。彼は誠実な男なので、魔法のせいで人気があるのではないかという考えは穿ち過ぎだろう。
あなたはエルフなのではありませんか? そんな風に、直に訊ねてみたい気がする。
夢良関は決して弁が立つ方ではない。どちらかというと、無口なタイプである。理路整然とした答えが返ってくるとは思えない。マイペースで飄飄としているので、何となくリアクションが想像できてしまう。
「申し訳ありませんが、ご質問の意味がわかりません。エルフというのは何ですか?」そう言って、苦笑を浮かべるかもしれない。もしくは何も言わず、ただ笑っているだけなのかもしれない。
真正面からの問いかけは野暮なことになりそうな気がする。いや、まちがいなく、そうなるだろう。仮に夢良関がエルフだったとして、そのことで誰かに迷惑をかけているわけではない。エルフの魔法なり超能力を使って、連戦連勝を飾っているわけでもない。
夢良関は毎日、稽古に励んでいる。相撲がうまくなるために鍛錬を続けている。場所が始まれば勝ち越しを目指す。目の前に立ちはだかる壁を破ろうと、努力を重ねている。確かに人気力士であり、体重こそ重いが、それ以外は一般人とは何ら変わらない。
率直に言って、夢良関がエルフであっても構わない。少なくとも僕はそう思う。仮にエルフであったとしても、それは個性として認められる範囲内だろう。その証拠として、多くのファンが夢良関を応援している。エルフだから応援するのではない。夢良関だから応援するのだ。
僕はすべてのデータ資料を消去することにした。自信をもって言える。一切の躊躇いはなかった。夢良関の秘密に気付いた人は、これまでに大勢いたはずだ。しかし、そうした情報を一つも公開されなかった。おそらく、彼らも僕と同じ考えから、データ資料を消し去ったのだろう。
なぜ、そうしたのか? 皆、夢良関のファンになったからだ。今時の言い方なら、夢良関を推しているからである。確信をもって言える。相撲に取り組む姿勢、意表を突く技の数々、ひたむきな努力。そして、さわやかな笑顔。それらを見た者は皆、夢良関に魅了されてしまうのだ。




