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夢良関はリハビリ中に筋肉と脂肪を増やし、一回りも二回りも大きくなった。増量のために役立ったのが、故郷の淡路島ハンバーガーである。高タンパクの淡路牛と甘みのあるタマネギをいかしたそれは、とても食べやすくて栄養満点であるらしい。
元々小食で体重が増えにくい体質なので、ハンバーガーは理想的な食べ物だった。増量の目的は、念願の押し相撲を極めるためらしい。かつての小兵力士の面影はなくなったが、身体の柔らかさと俊敏な動きは変わらずキープしている。
インタビューによれば、身体を大きくするだけではなく、全身のバランスには気を使ったという。筋肉の強靭さと柔らかさの両立は難しい。筋トレと同時進行で、布団を丸めて作った人形を使って、反り技の鍛錬を重ねたという。
おかげで、大怪我をする前に観客を沸かせていた決まり手、〈居反り〉を幕下でしてみせた。このようなアクロバティックな相撲を見せる力士は極めてまれである。思い当たるのは、かつて「技のデパート」と呼ばれた舞の海ぐらいだろうか。令和の土俵では、夢良関以外には一人もいないと言っていい。
地元に近いということもあり、三月の大阪場所において夢良関は一番人気だった。花道を歩くと、大阪府立会館の雰囲気が一変する。大きな拍手が起こり、あちらこちらから歓声が上がる。ほとんどの観客が夢良関ファンなのだろう。だから、懸命に応援するし、精一杯、声援を送る。
夢良関のまわしは山吹色である。マス席や二階席、三階席で、同じ山吹色のタオルがゆれていた。山吹色は夢良関のカラーだ。うちわや座布団、クリアファイルなどのグッズも全て山吹色なのである。
三月場所で最も印象的だったのは、大関との取り組みだった。これまでの対戦成績から、夢良関にとっては分の悪い相手である。立ち合いで大関の強烈な当たりを受けて、土俵際まで攻め込まれたが、そこから粘って、持ち前の俊敏さと柔らかさを見せた。
大関の勢いを借りて身体を反転させると、ふわりと宙を舞ったのだ。まるでバレエダンサーのような身軽さだった。一瞬、半透明の羽根が見えたような気がしたものである。勢いあまってつんのめった大関を土俵の外に送り出す、見事な逆転勝利だった。
少なからず気になったので、この取り組みを何度も見直してみた。スローモーションで再生したところ、うっすらと銀色の羽根が映っていたのだ。やはり、見間違いではなかった。これこそ、「夢良関エルフ説」を裏付けるものではないだろうか?
関係各所にさりげなく問い合わせたところ、なぜか否定はされなかった。僕が見つけたぐらいだから、多くの方々が気付いているのかもしれない。まさか、角界では暗黙の了解になっているのだろうか。




