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瀬戸内海でもっとも大きな島  作者: 坂本光陽
甘き薔薇よ、永遠なれ

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18/56

甘きバラ


 叔父はコーヒーに口をつけてから、

「それは、遺言なんか?」

「ううん、遺言じゃないな。その人、入院していたんやけど、夢うつつの状態で、何度も口にしたんやって。その言葉の意味が、ご家族には全然わからなくて」


「夢うつつということは、意識が朦朧(もうろう)としているということやろ。そんな状態なら、意味不明で当然やと思うけどな」

「それはそうかもしれないけど」


「まぁ、ええか。夢うつつの状態で、その人、何て言ったんや?」

「【アマキバラヨ、エイエンナレ】」


「はぁ、アマキバラ? アキハバラじゃないよな」

「うん、アマキバラ。甘い薔薇って意味だと思うんやけど。今、秋葉原っていったよね。叔父様、【秋葉原よ、永遠なれ】なら、心当たりがあんの?」


「いや、心当たりはないけど、何となく画が浮かぶな。オタクたちが駅前広場に集結して、旗を振るアイドルに導かれている画が。ほら、ドラクロアの代表作みたいに」

「ドラクロアって誰? 代表作?」


「一九世紀フランスの画家,ウジェーヌ・ドラクロワや。代表作のタイトルは確か、『民衆を導く自由の女神』。フランス七月革命をモチーフにした有名な絵やで」

「本当に有名なんか?」


 スマホで検索をかけたら、すぐに出た。なるほど、美術にうとい私でも見覚えがある。ただ、肝心の内容から随分それている。とりあえず、話を戻そう。


 私はチラシの裏に、【甘きバラよ、永遠なれ】と書いた。

「たぶん、こうやね。叔父様の第一印象はどう?」

「ざっくりした印象やけど、時代がかった決め台詞かな。昔の映画とかアニメで使われたような雰囲気に近い」


「決め台詞?」

「【甘きバラよ、永遠なれ】。切れ味の良い語感からして、そんな感じやないか。怪獣ブームやアニメブームの後、80年以降の雰囲気か」


「平成生まれの私には、ピンとこないな」

 叔父は咳ばらいをしてから、

「まず、怪獣ブームはテレビで『ウルトラQ』や『ウルトラマン』が放映されて起こったんや。次いで『仮面ライダー』が社会現象になり、しばらくして『宇宙戦艦ヤマト』でアニメブームが巻き起こった。その流れは『機動戦士ガンダム』の映画三部作で決定的なものに……」


 叔父のレクチャーは聞き流す。言い忘れていたが、叔父はオタクだと思う。キモい感じはしないけれど、アニメについて力説する姿は、正直言って引いてしまう。


 ただ、意外なところで、核心をつくことがあるので、叔父は侮れない。なぜなら、

「そういえば、アニソンにも【甘きバラよ】や【永遠なれ】と似たようなフレーズがあったんちゃうかな」と、言い出したからだ。




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