私の相談事
日曜日に早起きをしてお弁当をつくり、汗ばむ陽気の中、えっちらおっちら坂道を登ってきたのに、誰も出てこない。チャイムを鳴らしても、スマホを鳴らしてみても、反応がない。
母方の祖母が亡くなってから、叔父は古びた一軒家で一人暮らしをしている。1995年の阪神淡路大震災をくぐりぬけた日本家屋の中で、たぶん、ぐっすり寝込んでいるのだろう。かわいい姪と交わした約束など、すっかり忘れて。
まぁ、いつものことである。勝手知ったる親戚の家。合鍵があるので、「おじゃまします」と一声かけてから、玄関を潜り抜ける。
ダイニングキッチンの窓を開けると、風が吹きこんできた。買ってきたデザートを冷蔵庫に詰めたりお湯を沸かしたりして、空気を入れ替えてから、エアコンのスイッチを入れる。冷房より除湿の方がいいだろう。
洗濯物の山があったので、洗濯機を回すことにした。全自動式なので手間はかからない。洗濯機の音が二階に届いたのか、叔父があくびをしながら、階段を降りてきた。
「おはよう、叔父様」
「何で叔父様やねん」
「『叔父様って呼べ』と言ったのは誰やろ?」
「それ、メグちゃんが子供の頃の話やないか」
このやりとりは定番だ。私たちはダイニングキッチンに移る。私が早起きをして作ってきた、お弁当を広げた。最近は彩りまで考えるようになったし、インスタント味噌汁とサラダも付いている。
叔父が朝昼兼用の食事をとっている間に、洗濯物を二階のベランダに干してしまう。今日は天気がいいので、数時間で乾くだろう。ダイニングキッチンに戻り、食後のコーヒーを入れながら、チクリと言ってみる。
「叔父様、私との約束、忘れていたんちゃう」
「いやいや、そんなことはないで。何か相談事があるんやろ。今日はメグちゃんが来るってしっかり覚えていた」
「嘘つきやな。グーグー眠っていたくせに」
「それで、相談事って何や? 待て、当ててやろうか。二十歳の女子が悩んでいるとすれば、一つしかない。男子についてやろ」
私は両手で×印をつくり、
「ブーッ、はずれ」
「そうか? 俺がメグちゃんの相談にのれることって、男子の気持ちぐらいやぞ。外見は40男だけど、中身は二十歳のままだから、何だって訊いてくれ。男子ってのは、薄っぺらいくせに見栄っ張りで、マジどうしようもない生き物やからな」
話が横道にそれそうなので、私はきっぱりと告げる。
「私の相談事いうんは、ある人が言ったことについて。より正確に言うと、その人が亡くなる前に言い残した言葉についてやねん」




