球団名談義
俺の仕事は物書きである。依頼を受ければ、何でも書く。広告代理店ではプランナーをしていたが、CMの絵コンテからチラシの宣伝文句まで手掛けていた。フリーランスになってからは、テレビ・ラジオの構成作家をしていたし、雑誌コラム、ネット記事なども書いてきた。
節操がないと言われるほど、俺は何でも書いてきた。そういえば、フリーペーパーの4コマ漫画、コミック誌の漫画原作を手掛けたこともある。そんなところを浦山に見込まれたということだろう。つまりは、自分のアイデアを形にするために知恵を貸せ、ということだ。
「『ドカベン』や水島新司の名前が出たときに気づくべきだったな。おまえが考えているのは、フィクションの中の新球団ということか。『ドカベン スーパースターズ編』の東京スーパースターズ、『野球狂の詩』の東京メッツのような架空球団やな」俺は湯呑のお茶を飲んでから、「おまえの考えていることはこういうことか? どこかのコミック誌で野球漫画を連載したい。主人公たちがプロ野球選手で、淡路島を拠点にした架空球団に所属しているようにしてほしい」
「ようわかっとるやないか。できれば、その野球漫画は大ヒットさせて、アニメ化やテレビドラマ化、実写映画化を目指したい。いわゆるメディアミックスやな。最近やったら2.5次元の舞台・ミュージカルのあるかもな」
「夢はでっかく、いうわけかいな」
浦山はニヤリと笑い、
「球団名も考えてみたで。地域性を打ち出すために、〈淡路島×××〉は堅いところやろう。タイガースやバファローズに負けないように、ニックネームでインパクトを打ち出さなあかん」
「へぇ、どんなニックネームなんや?」
「あわてるな。俺のアイデアを発表する前に、どんなもんが考えられるか言うてみぃ」
「パッと思いつくのは、ハヤブサの〈ファルコンズ〉とか、サメの〈シャークス〉、不死鳥の〈フェニックス〉……」
「あかんな。インパクトがイマイチや。最後のフェニックスは秋季教育リーグの〈みやざきフェニックスリーグ〉とかぶるし」
俺は肩をすくめて、
「浦山のアイデアは、よほどの自信作なんやな」
「当たり前やがな。これからのプロ野球は女性ファンなしには考えられん。そない考えて、女の子に大人気なキャラをもってきたんや。テレビやSNS、街角でよう見かけるで。例の〈なんか小さくてかわいいやつ〉」
「……まさかとは思うんやけど、それって」
浦山はたっぷり間をとってから、
「〈×ぃかわ〉や」自信たっぷりに言った。「〈淡路島×ぃかわズ〉。どうや、これは受けるで。女性ファンを一網打尽や」
俺は絶句していたが、喉の奥から声をしぼりだした。
「冗談やろ。どない考えても正気とは思えんで」
浦山は豪快に笑っていた。俺は大学時代を思い出す。浦山は当時と変わっていない。突然、受けを狙って荒唐無稽なことを言いだすのだ。はっきり言って理解不能である。
「冗談や、冗談。決まってるやないか」そう言ったが、浦山は半分本気だったと思う。
俺は生ビールの残りを飲み干してから、
「球団名はさておき、まだ構想段階なんやから、夢はでっかくということやな」
「まぁな、夢を実現させるために必要になんのが、おまえのプランニングや。経験に基づいた独創的な企画案、画期的なアイデアが欲しい。もちろん業界の人脈とコネも駆使してな」
そうなると言っておかねばならないことがある。
「最初にはっきりさせとこ」浦山の目を見ながら、「ギャランティは発生するんか? 仕事として取り組むんやなら、当然ありやろな。まさかとは思うけど、元同期のよしみでタダでやってくれ、いうんはないで」
どんな親しい間柄でも、どんな面白そうな仕事であっても、けじめはつけなければいけない。そうでなければ、フリーランスは食っていけないのだ。もし、浦山がしらけた顔になったり成功報酬をちらつかせたりして、誤魔化そうとするようなら、今後の付き合い方を考える必要がある。
「そんなの当たり前やないか」浦山は真面目な顔つきで、「親しき中にも礼儀あり。俺は仕事仲間を大事にする男や。フリーランスや下請けいじめはせぇへん。成功報酬なんてケチなことも言わん。打ち合わせ中の飲み食いは、俺もちや。かかった経費は遠慮なく俺に請求してくれ」
そこまで言ってくれるのなら、俺にも真剣に取り組む甲斐があるというものだ。




