居酒屋会談②
かつて、関西にはプロ野球チームが多かった。阪神タイガースとオリックスバファローズの二球団は健在だが、時代をさかのぼると南海ホークス、阪急ブレーブス、近鉄バファローズという三球団もあったのだ。
南海は福岡県に移ってダイエーホークスになり、今はソフトバンクホークスになっている。阪急ブレーブスはオリックスブレーブス、そしてオリックスブルーウェイブになり、のちに近鉄バファローズを吸収合併して、オリックスバファローズになった。しかし、淡路島のプロ野球チームがあったことは聞いたことがない。
「嘘やろ?」俺は言った。「淡路島を拠点にしたチームなんて初耳やで」
もったいぶらずに、浦山は種明かしをしてくれた。
「ただし、セ・リーグ、パ・リーグのNPBやないで。独立リーグって知っているやろ。あれも一応プロ野球やからな」
なるほど、選手の年俸は天と地ほどの差があるが、プロにはちがいない。独立リーグ出身のNPB選手は増えている。贔屓の阪神タイガースにも、石井大智や湯浅京己をはじめ大勢いる。そういえば、藤川球児監督もメジャーリーグから阪神に復帰する前の一時期、四国の独立リーグに所属していた。(蛇足になるが、わが阪神には淡路島出身の選手がいる。近本光司と村上頌樹という中心選手である)
「今はなくなってもうたが、関西独立リーグに神戸サンズちゅうチームがあった」浦山は説明を続ける。「マック鈴木って覚えてないか。メジャーリーグやNPBで活躍したピッチャーやけど、晩年はサンズで選手兼任監督をやっとった」
「ああ、その話は聞いた覚えがある」
マック鈴木といっても生粋の日本人である。兵庫県神戸市出身で、本名は鈴木誠という。蛇足になるが、彼の奥さんは、お笑いコンビ・クワバタオハラの小原正子さんである。
「その神戸サンズの拠点が淡路島いうわけか」俺が言うと、
「ここは洲本市やけど、サンズが練習に使っていた洲本市民球場はすぐ近くやで」と、浦山は言った。「けど、十数年前に活動休止になってもうた。サンズの他にも、淡路島ウォリアーズちゅうチームもあったんやが、いろいろあって今は休眠中や」
独立リーグに関しては詳しくない。というより、知らないことばかりだ。しかし、淡路島出身の浦山にしてみれば、サンズとウォリアーズは「おらがチーム」だったのだろう。選手たちに親しみを感じて応援していたにちがいない。
「だとすると、浦山、そういうことなんか」
「ああん? 何が、そういうことやねん」
「まさかとは思うけど、淡路島に新球団をつくろうと思てんのか?」
浦山はニヤリと笑った。
「おまえ、正気か。プロ野球の球団やぞ。一体いくらかかると思っとんねん」
NPBではなく独立リーグだったとしても、おそらく一千万や二千万ではすまない。少なくとも億単位、もしかすると十億以上なのではないか。浦山にそんな貯えがあるとは思えない。まさか、淡路島でスポンサーを集めるつもりなのか?
そんなことを考えていると、店主が声をかけてきた。
「そろそろごはんを食べたくありませんか? 新鮮なサワラがあるので、生サワラ丼なんかいかがですか?」
サワラは足が早い。傷みやすいので流通しにくいのだ。俺は生サワラ丼を初めて口にした。独特な食感と合わせて豊かな風味を堪能した。
「めちゃくちゃ旨いな。おまえ、こんなもんを毎日くってんのか?」
「毎日やないけどな。新鮮な海の幸は、めちゃくちゃ身体にええで」
「心身ともにリフレッシュ。脳みそまで作りかえてくれたりしてな」
「その読みは的中や。島にきてから、俺の頭は冴えまくってんねん」
その冴えまくった頭で閃いたのが、プロ野球の新球団結成か? 野球で島おこしか?
「話を戻すんやが、本気で新球団結成を考えてんのか? 仮に独立リーグとしても、素人が手を出すのは無謀すぎるやろ」
「そういう考え方もあるかもな」
「あるかもな、やないわ。無謀の極みやないか。どうやって億単位のカネを用意すんねん」
「それは無理やろうな」浦山は笑いながら、「億単位といわず、数百万、いや数十万でも難しいやろな」
「数十万? おまえ、一体なんの話をしてんねん。新球団結成の話やぞ」
「ああ、そうや。新球団の話や。あいにく打出の小槌はもってへん。カネで勝負しようとは端から考えてへんのや。カネをかけんでも、画期的なアイデアさえあれば、どうにかできるもんやで」
カネをかけずに新球団? 野球で島おこし? 俺を淡路島に呼び寄せたことと合わせると、浦山の話が何となく見えてきた。




