居酒屋会談①
淡路島の歓楽街といえば、洲本新開地になる。華やかさという点では、大阪のキタ・ミナミとは比べるべくもない。ただ、昭和レトロの雰囲気を漂わせており、かなり居心地がいい。初めてきたのに郷愁をおぼえるほどである。
浦山に連れていかれたのは、小さな居酒屋だった。店内は細長くて、まずカウンターがあり、その奥に二つのテーブル席が並んでいる。まるで鰻の寝床だった。時間が早いせいか、他に客はいない。俺たちが本日の一番乗りらしい。
若い店主が奥から出てきて、
「らっしゃい、好きなとこに座ってええですよ。今なら貸し切りやからね」
俺たちはカウンター席に腰をおちつけた。浦山は俺を指さしながら、
「大将、こいつ、淡路島に初めてやねん。とびきりの海の幸を食わせたってや」
「わかりました。目が飛び出るほど新鮮なやつをサービスしましょう」
二人はツーカーの関係らしい。浦山は冷蔵庫から瓶ビールをとりだし、コップとともに持ってきた。店主は浦山と話しながら、魚介の切り身を包丁でさばいていく。
「今更やけど、苦手な魚はないやろな」と、浦山から訊かれた。
もちろん、そんなものはない。生ビールを飲みながら待っていると、豪華な海鮮セットが目の前にやってきた。尾頭付きの鯛に大きな伊勢海老、さまざまな海の幸が刺身で盛られている。最初につまんだトロは舌の上でとろけそうだった。
「お世辞抜きでめちゃくちゃ旨い。海の幸いうんは言いえて妙やな」
「そうやろ。穏やかな瀬戸内海が最高の味わいに育ててくれるんや」
「まさか、おまえ、魚が旨いから淡路島に移ったんとちゃうんか?」
「それはないと言えば噓になる。魚の旨さは淡路島の魅力の一つや」
なるほど、それは理解できた。そろそろ、本題を詰めておこうか。
「さっきの話の続きやけど、野球がどうたら言うてたな」
「そうやな、酔うてまう前に話しといた方がええか。いや、その前にクイズや。野球選手が死ぬほど嫌う海の幸が何かわかるか?」
「魚が嫌いやったら骨が弱くて野球ができんやろ。『ドカベン』の里中くんは魚嫌いで故障が多かったけど」
「『ドカベン』て水島新司の野球漫画やったか。小さな巨人に、そんな設定あったかいな。まぁええわ。クイズの答えはタコや、三打席凡退を三タコとかいうやろ」
「ああ、いうな。三タコ、四タコって。そやけど、それが何やねん」
「いや、それだけの話や。とりたてて落ちはない。ただ、海の幸と野球を結びつけたかっただけや」
何じゃそりゃと思ったが、つまり淡路島と野球につながりがある、ということか。
「もしかして、淡路島は野球が盛んなんか?」
「ようわかったな。実は、そうやねん。〈淡路島ベースボールクラシック〉って知ってるか?」
俺は首を横に振って、
「知らん。初めて聞いた」
「中学女子野球の大会や。高校野球でいえば、春夏の甲子園みたいなもんやな」
「淡路島にそんな大きな球場があるんか?」
「ああ、淡路佐野運動公園に二つの球場がある。第一野球場は両翼100メートル、センター122メートル、内野スタンドと外野芝生席を合わせて6000人が入るし、夜間照明付きやで」
「それは大したもんや。プロ並みやないか」
「驚くんは早いで。淡路島には〈淡路ブレイブオーシャンズ〉ちゅう女子硬式野球チームがある。もちろん、男子も負けてへん。聞いて驚け。淡路島にはプロ野球チームもあったんや」
確かに驚いた。そんな話は聞いたこともない。




