同期の男
大阪生まれの大阪育ちだが、淡路島に行くのは初めてである。小学生のときにキャンプをしたことがあるので正確には二度目なのだが、何も覚えていないので初めて行くようなものだ。淡路島のガイドブックを買って、流し読みをしてみた。
温暖な気候とミネラル豊富な土壌のおかげで、淡路島では美味しい野菜と果実がとれるらしい。とりわけタマネギは名産品である。柔らかくて甘みがあり、生で食べるのに最適だという。他にも、鰆などの新鮮な海の幸、観光客に大人気の淡路島ハンバーガー。グルメをうならせるものが淡路島にはいっぱいある。
これまで大阪と東京で働いていたが、還暦をすぎた今は半ばリタイアの状態にある。そうでもなければ、浦山の誘いにのることもなかっただろう。大学同期の浦山とは年賀状やメールのやりとりはあるが、卒業後は数えるほどしか会っていない。
浦山の用件はわからないが、仕事半分・遊び半分と聞いている。ハッタリを利かす間柄でもないし、ブランドスーツに革靴は不要だ。デニムパンツにジャケットを羽織っていけばいいだろう。阪急電車で神戸三宮駅まで行き、バスにのりかえて明石海峡大橋を渡れば、もう淡路島である。
浦山はいろいろな業界で働いて全国各地を転々としていたが、今は起業して淡路島に落ち着いているらしい。バスの窓から眺めているだけでも、その気持ちはよく理解できる。温暖な気候のせいか、のんびりとした雰囲気があり。時間がゆったりと流れているようだ。
浦山の住まいは、島の中心地である洲本にあった。きれいなマンションの一室であり、事務所も兼ねている。俺たちは応接セットで向かい合う形で腰を下ろした。顔を合わせるのは久しぶりだが、関係性は大学時代のままで何一つ変わっていない。
俺は冷えた麦茶で喉をうるおしてから、
「お互い還暦もすぎたわけやし、そろそろ人生の終わり方を考えんとあかんな。浦山はどないするつもりやねん」
「島内で人脈もできてきたところやし、俺はまだまだバリバリ働くつもりやで」浦山は笑みを浮かべて、「これから面白いことができそうやしな」
「へぇ、どんな仕事してんねん? 確か、企画・広告関係ていうてたな」
「まぁ、こう見えても一国一城の主というわけや。けど、島の人から頼まれたら何でもやらなあかん。はっきり言うて、便利屋とかわらん」
「地元に根付いているなら、それでも大したもんや」そろそろ頃合いだろう。俺は本題に入ることにした。「で、用件いうんは一体なんや? 落ち着かんから、そろそろ教えてくれや」
浦山はじらすように間をとってから、
「一言でいうと島おこしになるんやろうけど、スケールの大きな企画やと思うで。まともな人間やったら笑いころげる冗談みたいな話や」
「もったいぶらんと早よ言ってくれ。どんな島おこしを考えとんねん」
「観光スポットとしての淡路島の人気は高まってると思う。けど、島の人口は減少傾向にあるんや。少子化高齢化が進んどる。俺が考えとんのは、島に移り住む人を増やすことや」
「あたたかくてバカンス気分が楽しめるし、食の宝庫って呼ばれるほど旨いものが多いんやろ。淡路島の魅力はいっぱいあると思うがな」
「けど、現状は厳しい。そこで考えてみたんや」浦山は床に転がっていたボールを拾い上げた。野球の軟式ボールである。「大学のとき体育の授業で、軟式野球やったん覚えているか? ピッチャーのおまえはバカスカ打たれるし、野手がヘボやからエラー続出。毎回乱打戦やったけど、あれはあれでおもろかったな」
「あったな、そんなこと。けど、訂正させろ。試合を盛り上げるために、わざと俺は打たれたんや。体育の授業でノーヒットノーランなんかやったら、ドン引きやろ」
「ふん、そういうことにしといたろか」
「おい、まさかとは思うが、草野球を始めよういうんちゃうやろな。この年になって野球はきついで」
「どうやろな。話の続きは河岸をかえてからや」
浦山は笑っていた。その表情を見るかぎり、当たらずも遠からずだったようだ。




